転移性脊椎腫瘍患者の下肢麻痺と歩行能力の変化
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概要
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【はじめに、目的】 平成22年4月の診療報酬改定により、がん患者リハビリテーション料が新設され、がん患者の理学療法(以下、PT)に携わる機会が増加している。がん患者のPTでは、がんの進行に伴う脊椎転移により下肢麻痺を呈した症例を経験するが、目標設定やPTプログラムの選択に苦慮することがある。本研究では、当院における転移性脊椎腫瘍患者の診療記録を後方視的に調査し、PTを行う際の評価や目標設定で留意すべきポイントを明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は、2010年1月から2011年10月の22ヶ月間に、当院に入院しPTを実施した下肢麻痺を呈した転移性脊椎腫瘍患者28例とした。対象患者の年齢は68.9±8.9歳、性別は男性17例、女性11例で、原発巣は肺がん11例、前立腺がん5例、肝・胆がん4例、消化器がん2例、婦人科がん1例、造血器がん1例、原発不明がん4例であった。手術を施行した患者は9例、放射線療法を施行した患者は21例で、入院からPT開始までの期間は5.5±4.3日、PT実施期間は33.2±21.7日、在院日数は41.3±20.7日であった。調査方法は、診療記録をもとにした後方視的調査とし、調査項目は、初発症状、下肢麻痺出現から入院までの期間、フランケル分類(麻痺重症度)、歩行能力、転帰とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の実施に当たっては所属機関の倫理審査委員会が定める申請規定、個人情報については所属機関の患者個人情報保護規則を遵守した。【結果】 初発症状として、腰痛・背部痛が下肢麻痺に先行して認めた患者が17例(60.7%)、下肢脱力感を認めた患者が11例(39.3%)であった。下肢麻痺出現から入院までの期間の中央値(25-75%値)は12(3-24)日であった。PT開始時のフランケル分類は、A:3例、B:2例、C:15例、D:8例、E:0例であった。フランケル分類の(PT開始時からPT終了時)変化は、フランケル分類Cの2例がDへ改善、Cの1例がBへ増悪、それ以外の患者では変化を認めなかった。PT開始時の歩行能力は、不能・全介助:22例、部分介助:2例、見守り:2例、修正自立:2例、完全自立:0例であった。歩行能力の(PT開始時からPT終了時)変化は、28例中7例(25%)で1段階以上の改善を認め、1例(3.6%)で低下を認めた。がんの原発巣と歩行能力の改善との関係では、前立腺がん(1例)、肺がん(3例)、肝・胆がん(1例)の改善率が20-30%程度と低い傾向を示した。転帰は、死亡が5例(18%)、転院が13例(46%)、自宅退院が10例(36%)であった。がんの原発巣と転帰との関係では、肺がん(2例)、肝・胆がん(1例)の自宅退院率が20%前後と低い傾向を示した。【考察】 初発症状では下肢麻痺に先行した腰痛・背部痛を生じた患者を約60%に認め、進行がん患者のPTを進める際の疼痛評価は、下肢麻痺出現を回避するような運動負荷の設定に役立つ可能性が考えられた。また、今回の結果から、下肢麻痺を呈した転移性脊椎腫瘍患者では、1ヶ月程度のPT期間において、歩行能力の改善を期待できる患者は25%程度であること、肺がんや肝・胆がんの患者では歩行能力の改善率が低いことに加え、生命予後も悪い傾向にあることが確認された。PTを進める上では、この点を含めた短期的な目標設定が重要であると考えられた。今回、転移性脊椎腫瘍患者のPTを行う際の評価や目標設定に有用となる情報について検討したが、本報告は全体の症例数、がんの種別ごとの症例数ともに少なく、一定の見解を述べるには限界がある。PTに役立つ具体的な指針とするには、症例の集積、推測統計を用いた統計学的検討が今後の課題と考えられた。【理学療法学研究としての意義】 がん患者のリハビリテーションは、平成22年4月の診療報酬改定を機に急速に広がりを見せている。しかし、がん患者のPTで必要となる評価やプログラム、目標設定、効果判定などについての具体的な指針を示す報告が少ないのが現状である。生命予後の悪化が危惧され、身体機能や活動能力の急速な低下を示すがん患者では、目標設定やPTプログラムの立案に苦慮する場面も多い。このような背景を踏まえ、症状やがんの種別ごとの特徴と機能的予後、生命予後を含めた検討が重要と考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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