保存期慢性腎臓病患者に対する運動療法教室の効果判定:─各種血清パラメーターによる対照群との比較─
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
【はじめに、目的】 保存期慢性腎臓病(以下保存期CKD)患者は,腎保護の観点から日常生活活動や運動が制限され,身体機能やQOLが低下していることが報告されている.近年,CKDの進行過程における心血管病(以下CVD)発症のリスクが高まっていることが明らかとなり,これまでの慣習的な運動制限との関わりを検討することは重要である.しかし,療報酬体系等の問題により,本邦における保存期CKD患者への運動療法介入の効果検討は難しい現状にある.当院では2009年より運動療法教室を開催し,保存期CKD患者に対する運動療法の啓蒙活動を行ってきた.そこで本研究では,運動療法教室に参加した群(以下介入群)と参加していない群(以下対照群)において,開始から6ヶ月後の各種血清パラメーターを用いて比較検討を行い,当院で行っている運動療法教室の効果を検証した. 【方法】 対象は当院腎臓病・高血圧内科に外来通院している非糖尿病性保存期CKD患者で,運動療法教室に参加した介入群14名(男性7名、女性7名、年齢50.8±11.9歳)と運動に関する講義のみを受けた対照群8名(男性5名、女性3名、年齢52.1±11.9歳)である.本研究は,介入群と対照群との6ヶ月間の腎機能及び糖脂質代謝機能の比較対照デザインである.血清パラメーター項目は,腎機能の指標として推定糸球体濾過量(以下e-GFR)と尿蛋白量を尿中クレアチニン値で補正した尿蛋白/尿クレアチニン値(以下UP/UCr)を用い,糖脂質代謝機能の指標として中性脂肪(以下TG),HDL・LDLコレステロール(以下HDL・LDL-C),血糖値を用いた.血清パラメーターは開始時と半年後の各数値を診療記録より調査した. 介入群が参加した運動療法教室とは,運動に関する講義,体力測定,運動処方,自宅で行う運動療法の実践,記録ノートでの自己管理方法の指導である.介入群には研究開始から半年間まで記録ノートを用いた運動療法継続に関する指導を行い,対照群には特に運動療法継続に対して指示を与えなかった.統計解析として,開始時における介入群と対象群の属性及び調査項目を対応のないt検定及びχ2検定を用いて検討し,各群の6ヶ月間の調査項目の変動を対応のあるt検定を用い検討した.また,6ヵ月後の介入群と対照群との比較は,調査項目の変化量を対応のないt検定を用いて検討した.有意差判定基準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当大学倫理委員会の承認を得て実施し,対象者に研究の目的と方法を説明し,同意を得て行った.【結果】 開始時における年齢,e-GFR(介入群VS対照群:50.85±20.8 ml/min/1.73m2 VS 44.3±24.7 ml/min/1.73m2),UP/UCr(0.45±0.51mg/dl VS 0.75±0.92mg/dl),TG(142.9±71.1mg/dl VS 115.6±35.1mg/dl),HDL-C(61.3±16.1mg/dl VS 53.3±5.8mg/dl),LDL-C(97.4±31.7mg/dl VS 107.8±23.0mg/dl),血糖値(97.1±8.5 mg/dl VS 94.9±8.9mg/dl)で二群間に有意差は認められなかった.介入群と対照群の開始から半年後の変化量はe-GFR(-0.85±6.2min/1.73m2 VS 0.5±8.8 ml/min/1.73m2),UP/UCr(0.10±0.28mg/dl VS 0.41±0.73mg/dl),TG(1.78±42.3mg/dl VS 14.3±26.2mg/dl),HDL-C(1.4±7.0mg/dl VS 5.5±11.4mg/dl),LDL-C(0.9±14.3mg/dl VS 7.3±19.8mg/dl),血糖値(1.07±8.85 mg/dl VS 4.2±15.8mg/dl)で各群における6ヶ月間の変化量及び介入群と対照群との比較において二群間に有意差は認められなかった.【考察】 本研究の結果から,保存期CKD患者に対する運動療法教室の提供は腎機能と糖脂質代謝機能の経時的変化に影響を与えないことが示唆された.しかし,介入群ではUP/UCr,TG,LDL-C,血糖値において減少効果を示し,数値が改善した割合でも高い傾向を示した(介入群VS対照群:UP/UCr:43% VS 38%,TG:72% VS 11%,LDL-C:43% VS 25%).今後更なるデータ集積や運動療法の遵守度評価を行い,効果検討を進めることで運動療法教室はCKD患者において有益な介入手段の一つとなると考える.【理学療法学研究としての意義】 継続的な介入が難しい保存期CKD患者に対する運動療法教室の効果検討を行うことは,理学療法領域における予防医学の拡大・発展に寄与すると考える.
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
- 療養型病院における廃用症候群の予後予測
- 髄腔内バクロフェン治療(ITB)後の理学療法:―歩行可能な症例に対する評価とアプローチ―
- 理学療法士の職域拡大としてのマネジメントについて:―美容・健康業界参入への可能性―
- 脳血管障害患者の歩行速度と麻痺側立脚後期の関連性:短下肢装具足継手の有無に着目して
- 健常者と脳血管障害片麻痺者の共同運動の特徴:―異なる姿勢におけるprimary torqueとsecondary torqueの検討―