NICU入院児の無気肺の改善に有効であった呼気圧迫法:―2症例の経験から―
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概要
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【はじめに】 2008年のCochrane Review(人工呼吸器管理中のChest physiotherapyは乳児の病的な呼吸状態を減少させるか)では,呼吸理学療法の有効性を示す報告は不十分であり,無気肺の解除,酸素化の改善に対する有効性は不明とされている.また,2010年にneonatal intensive care unit;NICUにおける呼吸理学療法ガイドライン(第2報)によるとSqueezingは,施行者の熟練度により効果や安全性に差が生じる可能性があると報告されている.【目的】 NICU入院中の児に対して,呼気圧迫法を用いて無気肺が改善した症例を経験したので報告する.【方法と結果】 症例1:在胎期間27週5日,体重610g,Apgar score1分5点,5分7点で出生.日齢157,体重1655gで未熟児網膜症,硝子体出血に対する手術目的で当院に転入した男児.経過:生後respiratory distress syndrome;RSDと診断され人工サーファクタント投与が実施された.生後28日の胸部レントゲン(以下胸部X線)よりにて慢性肺疾患と診断され,その後呼吸障害改善せず人工呼吸器管理が継続されていた.生後210日に抜管し,その後nasal-continuous positive airway pressure;N-CPAPにて呼吸管理していたが,著明な努力呼吸出現し約30分後に再挿管となり,直後の胸部X線で左肺に無気肺が確認された.理学療法評価:痰の性状は,透明粘張で量は多かった.視診にて吸気に伴う肋間・下部肋骨の陥没あり.呼吸数60~70回/分.聴診では左肺野でラ音が聴取された.静脈血ガス分析では,PH:7.32,PaCO2:62.2mmHg,PaO2:52.5mmHg.これらの評価から,分泌物による閉塞性の無気肺と判断し呼気圧迫法を実施した.実施した呼気圧迫法は,無気肺のある左側を上にした側臥位をとり,呼気に合わせ左胸部全体を圧迫し,吸気と同時に圧迫していた圧を開放した.圧迫回数は,2呼吸に1回とし3分実施,2分の休憩1サイクルとし,3サイクル繰り返した.理学療法介入後の経過:呼気圧迫法実施翌日の胸部X線では,左肺に存在した無気肺は改善した.しかし右側の上中肺野に新たに無気肺が出現した.そこで左右の側臥位にポジションを変,両側の呼気圧迫法を実施した.生後215日の胸部X線では,左右の無気肺が改善し,静脈血ガス分析はPH:7.36,PaCO2:47.3mmHg,PaO2:47.2mmHgであった.症例2:在胎27週0日,650g帝王切開にて出生した女児.Apgar score1分5点,5分7点.経過:出生直後にRSDと診断され気管挿管,サーファクタント投与,人工呼吸にて管理されていた.日齢28で抜管し,その後N-CPAPで呼吸管理されていた.日齢29において陥没呼吸が顕著となり再挿管となった.日齢30の胸部X線で左無気肺が出現.日齢31の胸部X線で無気肺が残存し,呼吸状態悪化見られたためサーファクタント洗浄が実施された.しかし,その後の胸部X線で無気肺が残存していた.理学療法評価:心拍数:170回/分 SpO2:90%台前半 人工呼吸器設定 SIMVモードで吸入気酸素濃度は90%,最大吸気圧:19 cmH2O,呼気終末陽圧:4cmH2O.視診では,左右胸郭の不協調的な動き(右>左)が見られた.聴診では,左肺全野における呼吸音の減弱.触診では,吸気に伴う左胸郭の拡張制限が確認された.また,痰の性状は,白色粘張痰で量は多かった.これらの評価から症例1と同様に,閉塞性の無気肺と判断し呼気圧迫法を実施した.実施した呼気圧迫法は,無気肺のある左側を上側にポジショニングをおこない呼気に合わせ胸部全体を圧迫し,吸気のタイミングと同時に圧迫していた圧を開放した.圧迫回数は,3呼吸に1回とし5分実施,5分休憩を1サイクルとし3回繰り返した.理学療法介入後の経過:日齢33の胸部X線で無気肺改善した.日齢38には抜管が可能であった.【倫理的配慮】 カルテから得た情報,理学療法評価内容は,個人が特定できないように匿名化しデータの管理に十分注意を図った.【考察】 早産児の呼吸器系の特徴として,胸郭が脆弱(柔らかく)で胸郭の弾性力が小さい.そのため,呼気圧迫解除後の後の胸郭拡張に伴う胸腔内圧の低下が期待できないとされている.また,急激な胸腔内圧の変化に伴い,気道閉塞や気管支攣縮を引き起こす可能性がある(横山,2006).しかし,本症例では,短期間で無気肺を改善することが可能であった.無気肺部分を呼気時に圧迫し,吸気に圧迫を解除することにより胸腔内の陰圧を高め,吸気の流入を促すことができたと考える.このことが,閉塞していた気道より抹消に吸気を流入させることにより,換気を改善し閉塞していた分泌物を排除することが可能であったと考える.【理学療法研究としての意義】 NICU入院中の児に対する呼気圧迫法の実施は,安全で効果的に実施することが可能であった.NICUにおける呼吸理学療法の有効性を蓄積していく必要がある.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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