心臓血管外科術後の人工呼吸器関連肺炎発生の現状と患者の傾向
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
【はじめに、目的】 肺炎は心臓血管外科術後の代表的な合併症のひとつである。これまでの報告では、術後肺合併症の発生頻度は1.5~6%と報告されている。さらに、人工呼吸開始48時間以降に発症する人工呼吸器関連肺炎(Ventilator–Associated Pneumonia;VAP)はICUで遭遇する院内感染症としては頻度が最も高い。その影響でICU在室期間、入院期間および死亡率が上昇することは多くの報告で示されており、術後リハビリテーションにも影響を及ぼすと予測される。今回、当院における心臓血管外科術後人工呼吸器関連肺炎発生の現状と発生患者の傾向について報告する。【方法】 2010年2月から2011年5月までの15ヶ月間に、当院にて心臓血管外科手術を施行した患者222例(男性:146例、女性:76例、年齢:68±12歳)を対象とした。対象の内訳は、手術様式別では弁膜症手術:52例、冠動脈バイパス術:41例、大血管手術:39例、複合手術:85例、その他:5例であり、待機的手術は189例、緊急手術が33例であった。VAP発生率やVAP患者の傾向を患者基本情報、術前血液生化学データ、手術状況、術後リハ進行を後方視的に調査した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は心臓血管研究所の倫理委員会によって承認された。また、研究実施にあたり、研究の趣旨、内容および調査結果の取り扱いを一括して厳重に管理することを含め、本人または家族に説明し同意を得た。【結果】 全術後患者のうち術後肺炎患者は4例(1.8%)発生し、すべての患者がVAPであり、全例とも48時間以上の人工呼吸器管理患者であった。48時間以上の人工呼吸管理患者24例のうちVAP発生率は16.7%であった。手術状況は緊急手術が3例、待機症例が1例であった。手術様式は、大血管手術:1例、弁膜症手術:1例、複合手術:2例であった。さらにVAP患者は、年齢が68~92歳(79±11歳)と年齢が高い傾向にあり、術前BMIは16.8~20.9(18.6±1.8)と低体重傾向、術前血清アルブミン値は全例2.9~3.8g/dl(3.0±1.0g/dl)と異常低値、術前eGFRは21.5~62.5ml/min(34.1±19.1ml/min)と腎機能低下患者であった。術後歩行開始は5~10日(7.3±2.5日)、術後歩行自立患者は1例のみで獲得病日は22日であった。転帰は、軽快退院が2例、呼吸器科転院が1例、死亡が1例であった。死亡患者は、低心機能(左室駆出率21%)の拡張型心筋症患者で、死因は術後の低心拍出症候群の状態に加えて出現した心室頻拍が主たる心不全死であるが、VAPを併発したことも大きく影響した。【考察】 当院の術後患者のVAP発生率は1.8%と、これまでの報告と同程度であった。また、術後肺炎の独立危険因子は、年齢65歳以上、慢性閉塞性肺疾患の既往、緊急手術、長時間手術が示されていた。今回、VAP患者が4例であったため統計学的検討には至らなかったが、同様に、患者の傾向としては高齢、緊急手術が示された。さらに本研究では、これまでの報告と異なる点として、術前BMIと術前血清アルブミンの低値により栄養関連因子の低下、腎機能低下も患者の傾向として挙げられた。VAP患者は重症化し易く、術後リハ進行を遅延させ、歩行自立に時間を要した。今後、症例数を増やし検討をすすめたい。【理学療法学研究としての意義】 心臓血管外科術後リハビリテーションが円滑に実施でき、ADLを獲得し軽快退院するためには、VAPの予防が重要課題である。今後、VAP発生の予測因子を明確にし、48時間以内の人工呼吸器離脱を目的とした理学療法の介入方法について検討する必要がある。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
- 療養型病院における廃用症候群の予後予測
- 髄腔内バクロフェン治療(ITB)後の理学療法:―歩行可能な症例に対する評価とアプローチ―
- 理学療法士の職域拡大としてのマネジメントについて:―美容・健康業界参入への可能性―
- 脳血管障害患者の歩行速度と麻痺側立脚後期の関連性:短下肢装具足継手の有無に着目して
- 健常者と脳血管障害片麻痺者の共同運動の特徴:―異なる姿勢におけるprimary torqueとsecondary torqueの検討―