急性大動脈解離術後患者の長期経過に影響を及ぼす因子の検討
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概要
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【目的】 近年,心臓血管外科において急性大動脈解離(AAD)に対する手術数は増加しており,医療技術の進歩に伴い入院死亡率は減少している.しかし,術後に再解離や解離進行による外科的処置の追加などの報告も含め,不安定な病態を持つことが特徴であり,予後の改善や合併症の予防は重要である.以前我々はAAD Stanford A型(AAD(A))に対する手術を施行され,術後に偽腔開存を認めた症例のうち,理学療法(PT)を施行した症例をプログラム進行により2群に分け,退院後のCTにおける偽腔拡大・解離進行・再解離(CT増悪)の有無について調査した.その結果,血圧管理に加え,入院中のPT進行や歩行耐久性もCT増悪に関与していたと報告した.しかし,入院前活動量や退院前後での活動量の変化などが,どの程度影響していたかは明らかではなかった.そこで今回はAAD(A)術後患者の入院前活動量と術後経過の関係について退院後のCT増悪症例を中心に考察する.【対象】 2010年8月から2011年5月までに当院心臓血管外科においてAAD(A)と診断され,手術を施行された症例のうち,入院中にPTを施行し,退院後6ヶ月以上偽腔の状態を観察し得た9例(平均年齢62.9±14.7歳,男性5例,女性4例)を対象とした.手術の内訳は上行・部分弓部大動脈置換術が7例,上行・弓部大動脈置換術が1例,大動脈基部を伴う上行・弓部大動脈置換術が1例で,ステントグラフト内挿術が8例で併用されていた.【方法】 対象の年齢,性別,術式,手術時間,術中出血量,手術~離床までの日数,手術~実用歩行(300m歩行)自立までの日数,入院中の歩行耐久性(15分間歩行),退院時のPT実施内容,退院後の外来受診時血圧,退院約6ヶ月後のCT増悪の有無,術前の改訂版Frenchay Activities Index(FAI)の得点,復職の有無をカルテ記載から後方視的に調査した.尚,退院後の安静時収縮期血圧は130mmHg未満を基準とした.【説明と同意】 本研究は,対象者に事前にデータの使用,個人情報の保護について説明し,同意を得た上で行った.【結果】 術前FAIの平均得点は27±6.2点(17-36点)であり,FAIの得点は女性で高値を示す傾向にあった.入院中のPTに関しては,9例中8例が自転車エルゴメータ駆動(10-30watts)を実施可能であり,1例は高齢・長期臥床により歩行練習を中心とした介入に留まった.外来受診時血圧は9例中8例でコントロール良好であり,退院6ヶ月後のCT増悪は1例で認められた.この症例の詳細についてみると,40歳代男性で上行大動脈基部~胸部下行大動脈に偽腔を認め,上行・部分弓部置換術+ステントグラフト内挿術を施行された.術後には下行大動脈に偽腔開存を認め,ステントグラフト近位にはわずかにtypeIエンドリークを認めた.歩行は術後14日で自立され,入院中の歩行耐久性は480mであった.術前FAIは30点で退院後に造園業に復帰予定であった.外来受診時血圧は128/81mmHgで,退院6ヶ月後CTでは,遠位弓部大動脈のステント近位部のtypeIエンドリークが増大していた.現在も厳重な血圧管理の下,経過観察中である.尚,退院6ヶ月後のCTで上行大動脈基部に仮性瘤の形成を認め再手術となった症例も1例認められたが,新規の病変と考え今回はCT増悪症例として扱わなかった.【考察】 今回の対象例では大半の症例で入院中に自転車エルゴメータ駆動まで進行可能であり,積極的にPTが介入できた.その結果,入院中にCT増悪した症例は認めず,安全にPTを実施出来たと考えられる.退院後のCT増悪症例に関しては,若年で術前FAIは比較的高値であった.また,労作を伴う復職を予定されていた.しかし,入院中の歩行耐久性は低値であったことから,退院前後での活動量の変化がCT増悪に関与した可能性が示唆された.FAIは年齢,性別,生活環境に影響を受けるとされており,本研究の対象者の中では男性で職業に就いている症例はFAIが低値である例を認め,下位項目では家事を表す項目が低値であると合計点も低値を示す傾向を認めた.また,従来の報告と同様に女性で高値を示す傾向にあった.これらのことから,FAIは術前の活動量を推測するのに有用ではあるものの,必ずしも生活全体での活動量が反映されるとは限らず,使用する際には注意が必要と考えられた.【理学療法学研究としての意義】 AAD術後患者において予後の改善は重要であるが,活動量に着目した報告は少ない.本研究はAAD術後患者の理学療法介入の際の一助となると考えられる.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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