術前の運動習慣、冠危険因子が冠動脈バイパス術前後における自律神経機能の経時変化に与える影響
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概要
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【はじめに】 心疾患患者における自律神経機能は予後予測の指標であり、自律神経機能の障害は冠動脈疾患の発生(Liaoら:1997)や致死性不整脈の発生(Odemuyiwaら:1991)と関連がある。心筋梗塞のみならず冠危険因子、肥満、生活スタイル、運動不足、精神的ストレスなども心臓副交感神経機能を抑制し、自律神経機能を低下させることや、冠動脈バイパス術そのものが自律神経機能を低下させることが報告されている。しかし、冠動脈バイパス術前の冠危険因子や運動習慣の有無と、術後自律神経機能の経過との関連については明らかにされていない。よって、冠危険因子、運動習慣の有無における冠動脈バイパス術前後の自律神経機能とその経時変化について検討した。【方法】 対象は、2010年10月から2011年10月までに岸和田徳洲会病院で、待期的単独冠動脈バイパス術を行った症例40名とした。緊急症例、陳旧性心筋梗塞を有する症例、3度以上の弁膜症を有する症例、測定時に不整脈が生じている症例、術前の安静度が床上臥位のみである不安定症例、複合手術を行った症例、β遮断薬を投与している症例は除外した。測定機器はActi-Heart(CamNtech社製)を用い、安静背臥位で5分間心拍変動を測定し、術前、術後1週間、術後2週間の自律神経機能の経時変化を評価した。対象者には測定の30分前よりベッド上安静とし、測定時刻は食後2時間を除く10~17時とした。RR間隔が前後で20%以上異なるものは不整脈として判定し、不整脈処理を行った後、周波数解析を行った。周波数解析成分の0.00~0.05HzをLF成分、0.20~0.35HzをHF成分とした。交感神経機能の指標としてLF/HF比、副交感神経機能の指標としてHF power(ms 2)を用いた。対象者を各冠危険因子・運動習慣の有無の2群に分類し、自律神経機能の各指標の経時変化について比較検討した。なお、運動習慣は術前の問診により週3回以上、20分以上継続する運動習慣の有無で判別した。統計学的処理はJMP9.02を用い、対応のない群はMann-WhitneyのU検定、対応のある群はFriedman検定、Bonferroniの不等式による修正を行ったWilcoxonの符号付順位検定を行い、危険率5%未満にて有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 参加者には調査開始時に紙面および口頭にて研究の目的・方法に関して十分な説明を行い、署名にて同意を得た。なお、本研究は岸和田徳洲会病院倫理委員会(受付番号22-12)によって承認されている。【結果】 運動習慣を有する群では、術後1週間より術後2週間においてHF成分が有意に高かった(37.7±15.4ms2 vs 85.1±42.5ms2、p<0.05)。術後2週間において、運動習慣のない群は運動習慣を有する群と比べ、LF/HF比が有意に高値であった(2.33±1.17 vs 0.79±0.59 、p<0.05)。その他の冠危険因子の有無においては有意差を認めなかった。【考察】 本研究では、術前の運動習慣が冠動脈バイパス術後の自律神経機能の改善に影響を与えることが示唆された。適度な身体運動の継続は、圧受容体反射の感受性を改善させる。Kollaiら(1994)によると、圧受容体反射と心拍変動は相関関係にあると報告されている。このことから、術前からの定期的な運動習慣による圧受容体反射感受性の向上が、冠動脈バイパス術後の自律神経機能の回復に有益な影響を与えている要因の一つと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究は心臓外科手術後患者の理学療法を進める上でリスク管理上の意義がある。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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