ASOに対する下肢バイパス術後の理学療法:─病変別の検討─
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
【目的】 閉塞性動脈硬化症(ASO)患者に対する外科的治療の1つとして下肢バイパス術があり,Fontaine分類3~4度の重症虚血肢患者,2度で運動療法により改善が見込めない患者,日常生活に著しい支障がある患者が適応となる.手術後は下肢血行動態の改善により,足関節・上腕血圧比(ABPI)や間歇性跛行が改善し,歩行能力の改善が期待される. 近年,人工血管や縫合糸,局所止血剤の進歩により下肢バイパス術後の安静期間は短縮されてきているが,統一された見解はなく,早期からの理学療法に関する報告は少ない.我々は第45回日本理学療法学術大会において,下肢バイパス術後の離床経過を3群の術式別に検討し,手術後の標準的なプロトコールの一定の目安を提示したが,今回は,過去の理学療法の内容および進行状況をRetrospectiveに調査し,各病変に対する術式別に検討を行ったので報告する.【方法】 対象は2004年10月より2011年7月まで,当院でASOに対し待機的に下肢バイパス術を施行した患者で,手術翌日より理学療法の依頼のあった50例61肢である.全例,手術前Fontaine分類は2度であり,独歩可能であった.対象者を病変別に大動脈-腸骨動脈領域〔A-I群〕23例(平均年齢74.5±8.5歳,術式:大動脈-両大腿動脈バイパス術3例,腋窩-両大腿動脈バイパス術2例,腸骨-大腿動脈バイパス術11例,大腿-大腿動脈交叉バイパス術7例),大腿-膝窩動脈領域〔F-P群〕18例(73.8±4.9歳,術式:大腿-膝上膝窩動脈バイパス術18例),膝下膝窩動脈以遠病変〔P以遠群〕9例(69.0±12.3歳,術式:大腿-膝下膝窩動脈バイパス術2例,大腿-膝上膝窩-後脛骨動脈バイパス術2例,膝下膝窩-後脛骨動脈バイパス術2例,大腿-後脛骨動脈バイパス術1例,膝上膝窩-膝下膝窩動脈バイパス術1例,膝上膝窩-後脛骨動脈バイパス術1例)とした.診療録より理学療法進行状況(手術後坐位開始日,歩行開始日,病棟歩行自立までの日数,),手術後入院期間,手術後合併症,患肢の手術前,手術後ABPI値を後方視的に調査し,病変別に検討した.理学療法の内容は全例,手術翌日よりベッドサイドにて下肢自動・他動運動および基本動作練習(坐位~歩行)を行い,病棟歩行が自立した段階でリハビリテーションセンターにて監視型運動療法を退院まで実施した.【説明と同意】 全ての対象者には本研究の目的を説明し,データの使用について同意を得た.【結果】 手術後の坐位開始日数はA-I群で平均1.9±0.8日目,F-P群で平均1.9±0.8日目,P以遠群で平均1.6±1.3日目であった.歩行開始日数はそれぞれ平均2.5±1.0日目,2.6±1.1日目,2.6±1.3日目であった.歩行自立日数はそれぞれ平均5.6±3.3日目,5.7±1.6日目,6.1±3.2日目であり,P以遠群で少し遅い傾向であった.坐位開始,歩行開始,歩行自立までの日数は各群で有意な差は認められなかった.手術後入院期間は平均18.8±6.7日,19.2±6.0日,18.6±6.0日であり,各群で有意差はなかった.手術後合併症はA-I群で貧血が2例(9%),胆のう炎が1例(4%),F-P群で胆のう炎,心不全がそれぞれ1例(5%),P以遠群で貧血が1例(11%)であった.各群の合併症発生率は13%,11%,11%とA-I群で少し多い傾向であったが,有意差は認められなかった.【考察】 ASOに対するバイパス術は病変部位により術式や,手術侵襲,術後管理,留意すべき合併症(感染,心血管疾患の増悪,開腹手術による呼吸器合併症,リンパ漏,Femoral Steal現象,関節運動によるグラフト閉塞,下腿浮腫など)などが異なり,理学療法実施上のリスク管理も異なる.今回,病変別による手術後理学療法の進行状況の検討を行ったが,各群で理学療法の進行に大きな差はなかった.また,各群ともに手術後の早期離床により,吻合部出血やグラフト閉塞などの重篤な合併症は生じなかった.これらのことより,下肢バイパス術後は手術後早期より重篤な合併症がなければ,早期離床を進めていくことが可能であると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 ASOにおける下肢バイパス術後の理学療法に関する報告は少なく,手術後理学療法実施に関しての検討は十分でない.ASO患者は近年増加してきており,下肢バイパス術を受ける患者も今後増加してくると考えられる.下肢バイパス術後の理学療法を実施するにあたり,エビデンスを構築する上でも本研究は重要であると考えられる.
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
- 療養型病院における廃用症候群の予後予測
- 髄腔内バクロフェン治療(ITB)後の理学療法:―歩行可能な症例に対する評価とアプローチ―
- 理学療法士の職域拡大としてのマネジメントについて:―美容・健康業界参入への可能性―
- 脳血管障害患者の歩行速度と麻痺側立脚後期の関連性:短下肢装具足継手の有無に着目して
- 健常者と脳血管障害片麻痺者の共同運動の特徴:―異なる姿勢におけるprimary torqueとsecondary torqueの検討―