呼吸介助法における手掌面圧と食道内圧
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概要
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【はじめに、目的】 呼吸介助法は患者の胸郭に手掌面を当て、呼気に合わせて生理的な運動方向に圧迫することで胸腔内を陽圧に変化させ呼気を促進し、相対的に増加する胸郭の弾性拡張力により吸気量の増大を得ようとするものである。この方法では、しばしば胸郭に加えられる圧の強さや方向が議論される。その中でも圧の強さは、強すぎると胸腔内が高い陽圧となるため気道閉塞や肺胞虚脱の原因となり、弱すぎると十分な吸気量の増大を得ることができなくなる。そのため、胸郭に加えられる圧はどの程度が適切なのか、が問題となる。このことを検討するためには、まず、胸郭に加えられる術者の手掌面の圧と胸腔内圧との関係を検討する必要がある。本研究の目的は、呼吸介助時の手掌面の圧と胸腔内圧の指標である食道内圧(Pes)を測定し、胸郭に加えられる圧がどの程度胸腔内圧に反映されるのかを検討することである。【方法】 実験は、A、Bの二つ行った。実験Aでは、介助を受ける被術者を健常男性1人(年齢28歳)に固定し、介助を行う術者を変え(男性理学療法士7名、年齢32.1±5.7歳、呼吸理学療法の経験年数6.6±1.6年)、術者の違いによる変化を見た。実験Bでは、術者を男性理学療法士1名(年齢29歳、呼吸理学療法の経験年数8年)に固定し、被術者を健常男性5名(年齢31.2±7.4歳)とし、被術者の違いによる変化を見た。両施行とも術者を立位、被術者をベッド上背臥位とし、術者が被術者に向かって左側に位置する設定で、上部胸郭に対する呼吸介助法を行った。測定は十分な安静の後(安静時)、呼吸介助法を2分(介助時)施行した。Pesは、総合肺機能検査システム(チェスト社製CHESTAC-8900)を用いて、食道バル-ン法(長さ10cm、直径1.2cmのバル-ンを直径2mmのポリエチレンチュ-ブに付けたものを使用)にて測定した。呼気ガス分析器(ミナト医科学社製AE300-S)を用いて流量変化を測定した。デ-タは、サンプリング周波数100HzでPCに取り込み、安静時、呼吸介助時ともに、一回換気量(TV)、呼吸数(RR)の安定した連続した5呼吸を抽出し、1呼吸中のPes最大値と最小値の差(ΔPes)、TV、RRを求めた。また、術者の手掌面から胸郭に加えられる圧(手掌面圧)は、被術者の胸郭にシートセンサ(XSENSOR社製X3PX100)を置き測定した。経時的な手掌面圧変化はサンプリング周波数10Hzで面圧解析ソフト(XSENSOR社製X3Medical5.0)に取り込み、ΔPesを算出した同呼吸時の最大手掌面圧(Δ手掌面圧)を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者及び被術者には本研究の趣旨を書面にて説明し、同意を得た。また本研究は甲南女子大学倫理委員会の承認を得ている。【結果】 実験Aでは安静時のΔPesは3.33cmH2O、TVは0.56l、RRは18.8回/分で、呼吸介助時のΔ手掌面圧は125±16cmH2O、ΔPesは12.28±2.04cmH2O、TVは1.19±0.11l、RRは7.87±1.00回/分であった。ΔPesの変化量とΔ手掌面圧の間で相関をみると強い正の相関関係(r=0.89、p<0.01)がみられた。また、ΔPesの変化量はΔ手掌面圧の7.2%程度となった。実験Bでは安静時のΔPesは3.91±1.43cmH2O、TVは0.51±0.10l、RRは14.1±2.9回/分で、呼吸介助時のΔ手掌面圧は182±5cmH2O、ΔPesは17.21±5.97cmH2O、TVは1.49±0.27l、RRは6.2±1.1回/分であった。呼吸介助法によるΔPesの変化量とΔ手掌面圧の間に相関はみられなかった。ΔPesの変化量はΔ手掌面圧の9.2±3.1%程度となった。【考察】 本研究により背臥位での上部胸郭呼吸介助法では、手掌面から胸郭に加えられた圧の10%前後が胸腔内圧に反映されることがわかった。またΔPesの変化量とΔ手掌面圧間において、被術者を固定した実験Aで高い相関が得られたことから、被術者が同じ場合、手掌面圧の圧差を大きくすれば、胸腔内圧の変化量も大きくなる可能性が示唆された。一方、被術者を複数にして行った実験Bでは相関が得られなかった。このことから呼吸介助法における手掌面圧と胸腔内圧の関係を検討する上で、胸郭コンプライアンスなどの被術者の状態を考慮する必要性があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 呼吸介助法によって実際に起こっている換気力学的な変化を理解し、より適切な呼吸介助法を検討する上で有用である。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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