人工呼吸器離脱直後の離床がPeak cough flowに与える影響
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概要
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【はじめに、目的】 気管挿管・人工呼吸器離脱(抜管)後は,痰の喀出不全や気道内流入物の誤嚥などによる呼吸器合併症を予防するため,咳嗽による自己排痰が極めて重要である.しかし抜管直後は痛みや覚醒の程度,臥床や手術の影響などによって咳嗽力が低下するため,従来自己による深呼吸や積極的な鎮痛療法など排痰を促進するケアが行われてきた.咳嗽力の指標には咳嗽時の最大流速を測定するPeak cough flow(PCF)が用いられているが,健常者においてPCFは体位により影響を受ける事が報告されている.今回,抜管直後より理学療法の介入を行ってPCFを測定し,体位および離床が咳嗽力に与える影響について検討した.【方法】 対象は集中治療室における気管挿管・人工呼吸管理患者13名(心臓血管手術後9名,心不全2名,消化器外科手術後1名,重症肺炎1名).抜管の基準には自発呼吸トライアルによる人工呼吸器離脱プロトコールを用いた.PCFの測定機器はChest社製SPIROMETER HI-801を用い,フローセンサーにフェイスマスクを接続し,空気漏れがないように顔面に密着させた.測定は抜管直後3時間以内に行い,(1)背臥位,(2)45度坐位,(3)端坐位直後,(4)離床後端坐位の4パターンの測定を行った.まず,背臥位にてPCFを測定し,45度坐位はベッドに角度計を取り付け,ベッド角度を45度として測定した.続いて端坐位直後のPCFを測定した後,離床後端坐位は当院リスクマネージメント基準に基づき,立位,足踏みまで行い,その後端坐位にてPCFを測定した.PCFは,最大吸気位における最大努力での咳嗽を指示し,練習を行った後,各パターン1分間の安静の後3回ずつ行った.各パターンのPCFの比較は最高値を採用し,危険率5%未満を有意水準とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全対象者に本研究の目的,リスク,個人情報の扱いについて説明し,同意を得た.【結果】 患者背景は,平均年齢は75.2歳,男性5例女性8例,平均身長は150.5cm,平均体重は51.1kg,平均APACHE2 scoreは10.6点,平均SOFA scoreは3.6点,平均挿管時間は47.8時間であった.抜管直後に非侵襲的陽圧換気へ移行した患者はいなかった.また,全ての患者が立位,足踏みを行うことが可能であった.PCFは背臥位の125.1L/分と比較して45度坐位は133.8L/分と有意に高値であった(p<0.05).端坐位は157.6L/分であり,45度坐位より有意に高値であった(p<0.05).また,離床後端坐位は175.0L/分であり,端坐位より有意に高値であった(p<0.05).なお,45度坐位,端坐位,立位,足踏みによる循環動態,呼吸状態の悪化は見られなかった.【考察】 今回,抜管直後の患者において,背臥位,45度坐位,端坐位直後,離床後端坐位とstep upに応じてPCFは増大した.健常者における報告では,背臥位から端坐位を取ることによりPCFは増大する事が報告されている.今回,抜管直後の患者のPCFは健常者と同様に背臥位,45度坐位,端坐位とstep upさせることで増大することを明らかにした.PCFは咳嗽力を反映し,自己排痰の可否を判定する指標である.今回抜管直後の患者においては,離床のstep upによりPCFの増大につながることが明らかとなり,その結果呼吸器合併症の予防に繋がると考えられる.特に,立位後端坐位のPCFは端坐位直後より高値を示したことから,抜管直後から積極的に離床を促す介入が咳嗽力の改善に有効と考えられる.また,離床のstep upによる循環動態,呼吸状態の悪化は見られなかったことから,抜管直後から積極的に離床を進めることは安全かつ有用であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 抜管直後における積極的な離床へのstep upはPCFの増加をもたらし,咳嗽力を改善させることが明らかとなった.排痰を促進するには,患者に対する多方面からのアプローチが重要であるが,中でも理学療法の介入の意義が具体的に示されたことは有意義といえる.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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