呼吸ケアチーム加算の実情と今後の展望について
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概要
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【はじめに、目的】 2010年4月から新たに認められたリハビリテーション加算の中に、呼吸ケアチーム加算(以下、呼吸ケア加算)がある。当院でも2010年5月から呼吸ケア加算の算定を開始した。しかし、対象患者が一般病棟に限られていること、人工呼吸器装着から48時間以上1カ月以内であること、週1回のみの算定であること、算定するには医師・看護師・理学療法士・臨床工学技士が在籍するチームによるラウンドが必要なこと、などの条件から、算定可能な患者がいるにも関わらず、算定できない状況になることもある。そこで今回、侵襲的人工呼吸器管理下の患者で、呼吸ケア加算を算定できた患者とできなかった患者の状況分析を行うこととした。また、呼吸ケア加算の目的である、人工呼吸器からの離脱をチームでサポートすることでの達成率を検証し、今後の人工呼吸器管理を再考することとした。【方法】 対象は、2010年5月から2011年10月まで、当院で侵襲的人工呼吸管理を行った患者のうち、呼吸ケア加算を算定できた患者と算定できなかった患者について、件数の差および算定できなかった理由について検証した。また、人工呼吸器からの離脱についても達成率を出し、離脱成功例と不成功例についてその理由を検証した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき、対象者およびその関係者には十分な説明を行い、同意を得ている。【結果】 対象期間中に侵襲的人工呼吸器管理を行った患者数は延べ348件であった。ICU・HCUでの人工呼吸器装着患者は134件で装着日数は平均5.4日、一般病棟での患者は214件で装着日数は平均10.1日であった。そのうち、呼吸ケア加算を算定したのは延べ67件であった。患者の内訳は周術期管理8件、急性呼吸不全10件、慢性呼吸不全急性増悪21件、心肺停止などによる低酸素脳症28件であった。反対に呼吸ケア加算対象患者であるにも関わらず、算定できなかったのは41件であった。算定できなかった理由は、1.当院でのチームラウンドが週1回しかなく、さらに医師の都合によりラウンドが中止となることもあるため対象患者がいても算定できない、2.対象患者がいても、ラウンド日までに人工呼吸器から離脱していれば対象外となるためタイミングが合わず算定できない、という理由があった。人工呼吸器からの完全離脱は、呼吸ケア加算を算定した67件のうち、チーム介入により達成できたのが24件で全体の35.8%であった。またICU・HCU入室中にチーム介入で人工呼吸器離脱を達成できたのが、周術期管理を除くと9件あった。一般病棟で離脱が不成功であった例では、呼吸循環機能が不良であったり、自発呼吸のみでの換気を維持できないなどチームのケア有無は関与しない理由であったが、チームが介入することで、安定した人工呼吸器設定を長期的に維持できるというメリットもあった。【考察】 当院では急性期病院ということもあり、人工呼吸器管理は一般病棟でなくICUやHCUなど集中管理下で行われることが多い。人工呼吸器装着患者すべてを、呼吸ケアチームがフォローサポートを行っており、その中でもICUやHCUなど集中管理をしている状況である方が、より密なカンファレンスを必要とする場合が多い。また一方、一般病棟で人工呼吸器管理下にある患者は、長期的に人工呼吸器が必要な患者か、終末期を迎える患者である場合が多い。そのため、一般病棟で人工呼吸器離脱にむけたケアを必要とする患者は少なく、実際に呼吸ケア加算を算定できる件数も少なくなってしまう、という現状がある。より日々の業務やチーム医療に即した加算を求められるのであれば、一般病棟に限定せず、ICUやHCUなども認められるのが現実的ではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究では、チーム医療の一環である呼吸ケアサポートから生まれる呼吸ケア加算について、その本質と実情を調査した。今後、急性期病院だけにとどまらず様々な形態の病院・施設での検証を行うことで、より実際的なチーム医療や診療報酬に繋がると考える。また、現在では非侵襲的人工呼吸器管理が増えてきており、当院でも同期間中、220件の非侵襲的人工呼吸器管理患者がいた。今後は、侵襲・非侵襲で人工呼吸器管理を区別するのではなく、全ての人工呼吸器装着患者を呼吸ケア加算の対象と捉えるのが、より臨床的・一般的な流れではないかと考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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