大学アメリカンフットボール選手の頚部筋力と競技レベル・ポジションとの関係
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概要
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【目的】 アメリカンフットボールは代表的なコンタクトスポーツのひとつであり、頭頸部の外傷発生率が高い (鐙ら、2007)。現在、日本アメリカンフットボール連盟が頭頸部の重大な外傷の予防のため頸部筋力の強化を推奨している。しかし、アメリカンフットボール選手の頸部筋力を、競技レベルやポジションと関連させて考察した報告は見当たらない。本研究の目的は、大学アメリカンフットボール部選手を対象に、頸部筋力と競技レベルやポジションとの関係を知ることで頸部筋力強化の指導の一助とすることとした。仮説は競技レベルが高いチームの選手、コンタクトプレーを主な役割とするポジションの選手は頸部筋力値が高いとした。【方法】 対象は2011年度中四国学生アメリカンフットボール1部リーグに所属するA大学から23名(1年7名、2年5名、3年6名、4年5名;年齢19.9±1.3歳、身長173.4±5.7cm、体重78.3±12.8kg)と、同2部リーグに所属するB大学から10名(1年4名、2年2名、3年2名、4年2名;年齢19.6±0.9歳、身長170.3±5.9cm、体重69.9±12.4kg)とした。両チームの試合数については、2010年度秋季シーズンでA大学が中四国学生1部リーグ戦・全国トーナメント戦の計5試合を行ったのに対し、B大学は2部リーグ戦3試合のみであり、練習頻度はA大学が週5回、B大学が週4回であった。ポジション別では、全選手を、ボールを扱うスキルポジション(18名)とコンタクトプレーを主な役割とするパワーポジション (15名)の2群に分類した。頸部筋力の計測はシーズン中の疲労の影響が少ない夏のオフシーズン中に実施した。機器はハンドヘルドダイナモメーターPower Track2 (NIHON MEDIX社製)を使用し、屈曲・伸展の2方向の等尺性筋力を計測した。頸部屈曲筋力計測は背臥位で、抵抗は前額部中央に加えた。伸展筋力計測は腹臥位で、抵抗は外後頭隆起に加えた。計測は各方向2回ずつ行い、最大値を採用した。屈曲・伸展の各筋力の絶対値を体重で除した値(体重比)を算出した。また、伸展筋力に対する屈曲筋力の比率(以下、F/E比)を算出した。これらの数値を所属チーム、ポジションで分類した場合の各群間の筋力(体重比)ならびにF/E比を比較検討した。統計学的分析として、2群間の平均値の比較には対応のないt検定を用い、危険率5%未満を有意とした。【説明と同意】 頸部筋力測定は事前に両大学の部長・監督ならびに選手に対して目的を説明して、同意を得た上で実施した。公表についても同意を得た。【結果】 所属リーグ間の筋力の比較では、A大学とB大学の間で屈曲筋力が2.2±0.6 (N/kg)と2.6±0.5(N/kg)、伸展筋力が3.3±0.5 (N/kg)と3.0±0.3 (N/kg)でともに有意な差を認めなかった。F/E比についてはA大学が0.69±0.18に対してB大学が0.88±0.18と有意に高かった(p<0.05)。ポジション間の筋力の比較では、スキルポジションとパワーポジションの間で屈曲筋力が2.5±0.6 (N/kg)と2.1±0.6(N/kg)で有意な差を認めなかった。伸展筋力についてはスキルポジションが3.3±0.4 (N/kg)に対し、パワーポジションは3.0±0.5 (N/kg)と有意に低かった(p<0.05)。F/E比は、0.75±0.20と0.74±0.21で有意な差を認めなかった。【考察】 津山ら(1999)は関東大学1部リーグに所属する大学選手の頸部屈曲・伸展筋力はそれぞれ2.3±0.7(N/kg)、3.0±0.5(N/kg)であったと報告した。本研究では、競技レベルの異なる両大学選手の頸部筋力が、先述の関東大学1部リーグのデータに近く、競技レベルの相違により頸部筋力に差が生じるとはいえなかった。今後、頸部筋力に影響を及ぼす因子についてさらなる検討が必要である。ポジション別では、スキルポジションの選手がパワーポジションの選手と比較して伸展筋力が有意に高く、本研究の仮説は支持されなかった。月村ら(2002)は頸部筋力について、絶対値は体格に恵まれているパワーポジションがスキルポジションに比べて強いが、体重比では逆転すると述べており、本研究の結果はこれを支持した。藤谷ら(2006)はディフェンスのスキルポジションであるディフェンスバックが、スピードに乗った状態でのコンタクトプレーが起こりやすく、脳震盪発生件数が最も多いとしている。そのため、ディフェンスバックの選手については、筋力体重比が高くても絶対値も把握することが、脳震盪などの頭頸部外傷の予防につながるのではないかと考える。本研究の限界は、対象者の人数が少ないことであり、対象を増やして調査を行うことが今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】 大学アメリカンフットボール選手の頸部筋力は、競技レベルよりも、プレーするポジションにより相違が生じやすいという新しい知見が得られた。このため、個別性のある頸部筋力強化プログラムの提示が可能となると考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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