人工股関節全置換術患者のQOLについての検討:─患者満足度および身体運動機能との関連に着目して─
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概要
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【はじめに、目的】 人工股関節全置換術(以下、THA)の目的は、除痛、歩行能力を中心とした動作能力向上等であるが、近年、それらに加えて、QOL向上が治療効果として重要視されている。したがって、THA患者のQOLに着目し、理学療法への満足感(以下、満足度)との関連を理解することは、患者本位の医療提供につながると考えられ、患者に深く関わる理学療法士にとって重要な課題である。そこで今回、入院時及び退院時のQOLを評価し、入退院時での変化および国民標準値との比較、さらに満足度や身体運動機能との関連を調査し検討した。【方法】 対象は、2009年10月~2011年9月にTHAを施行した55名55関節、男性7名、女性48名、年齢39~86歳(中央値67歳)とした。各評価は、入院時(術前1.0±0.29日)、退院時(術後32.9±2.9日)に実施し、QOLの評価にはMOS 36-Items Short-Form Health Survey(以下、SF-36)を用い、下位尺度8項目と下位尺度を身体的健康と精神的健康の2因子にまとめたサマリースコア2項目の合計10項目を国民標準値50点、標準偏差10点とした国民標準値に基づいた変換得点で算出した。入院時、退院時のSF-36の10項目の比較には対応のあるt検定を行い、年齢、性別を考慮した国民標準値との比較には対応のないt検定を行った。その結果、退院時に国民標準値よりも低値であった項目と理学療法に対する満足度(Visual Analogue Scale)のPearsonの相関係数を求めた。さらに、理学療法との関連を知るため、低値を示したサマリースコアと一般的に理学療法士が用いている身体運動機能の評価項目としての退院時の連続歩行距離、Time up and go test(以下、TUGT)、ファンクショナルリーチテスト/身長(以下、FRT)、疼痛(Visual Analogue Scale)との各関係もPearsonの相関係数を算出した。なお、正規性の確認を行い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、事前に本研究の目的と主旨、研究参加の任意性と同意撤回の自由、プライバシー保護について十分な説明を行い同意を得た。【結果】 入院時と退院時のSF-36の比較は、身体機能(PF)(10.4±10.8 vs. 30.1±12.8)、日常役割機能-身体(RP)(19.4±13.3 vs. 39.3±11.3)、体の痛み(BP)(32.2±8.2 vs. 42.9±9.1)、全体的健康感(GH)(42.6±9.4 vs. 51.3±10.0)、活力(VT)(41.4±12.3 vs. 51.9±10.7)、社会生活機能(SF)(35.6±22.2 vs. 41.7±14.6)、日常役割機能-精神(RE)(34.5±16.9 vs. 43.3±13.5)、心の健康(MH)(39.9±12.2 vs. 50.0±14.3)、身体的健康サマリー(PCS)(13.5±12.3 vs. 23.2±16.0)、精神的健康サマリー(MCS)(50.6±9.6 vs. 58.6±11.0 )であり、退院時の方が全項目で有意に高値を示した(p<.01)。SF-36の国民標準値との比較は、入院時ではMCSで有意差がなく、他の9項目で有意に低かった。退院時ではPF、RP、BP、SF、PCSの5項目で有意に低かった。退院時に国民標準値より有意に低かった5項目と満足度で有意な相関が認められたのは、身体的尺度に分類されるPF(r=.80)、RP(r=.78)、BP(r=.45)、PCS(r=.43)の4項目であった(p<.01)。主に低値を示した身体的尺度が要約されたPCSと身体運動機能では、歩行距離(r=.49)、TUGT(r=-.48)、FRT(r=.44)、疼痛(r=-.41)の全てにおいて有意な相関が認められた(p<.01)。【考察】 入院時のSF-36は、9項目で国民標準値より有意に低値を示した。THA術前の評価、理学療法では、身体機能、動作能力へ着目する傾向にあるが、身体面、精神面の両面でQOLが低い状態にある事を理解し、患者に接する必要性が考えられる。次に入退院時のSF-36の各項目の比較では、退院時に全項目で改善を認めており、手術や理学療法、他の入院中の環境が患者の全般的なQOL向上に結びつくと思われる。そして、退院時のSF-36で国民標準値よりも有意に低値を示した5項目中4項目が身体的尺度であり、身体的QOLの国民標準値への到達は、より困難であると理解出来た。国民標準値よりも低値であった5項目と満足度では、身体的尺度4項目で有意な正の相関が認められ、身体的QOLの向上は、QOLの低い要素を改善するだけでなく、患者の満足度向上のためにも必要であると考える。さらに身体運動機能とPCSで相関が認められたことから、理学療法による身体運動機能の改善は、身体的QOL向上を導き、満足度に結びつくことが期待できる。このことからもQOL向上のための理学療法の必要性が再認識出来た。今回の結果から、入院中における身体的QOLへの着目の必要性が示されたが、術前では、精神的QOLも低値であり、QOLの総合的な充実を図るためには、包括的なアプローチが重要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】 THA術後では、身体運動機能と理学療法への満足度がQOLと関連することが示された。このようなQOLの傾向を理解することは、患者本位の理学療法を提供するために有用である。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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