Lifting動作の筋電図学的研究:─腰部へのスタティック・ストレッチング効果の再検討 (第2報)─
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概要
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【はじめに、目的】 我々は昨年の本学術大会において,Lifting動作前のStatic Stretching(以下,Stretch)は,動作初期に筋活動の減弱を引き起こし,Stretchの効果を考慮し,実施法を選択することが望ましいことを報告した.本研究は,このStretchの時間を同じ長さにする条件では,持続と反復で筋電図学的にどのような影響が現れるかを検討し,Lifting動作に起因する腰痛の予防対策を提案することを目的として行った.【方法】 被験者は腰痛の既往が無い等,本動作に影響を及ぼす要因をもたない健常男子学生22人(20.5±1.2歳,170.6±5.3cm,65.4±10.2kg)であった.腰部傍脊柱筋(以下,LP)を被検筋として,その筋電図学的評価を行った.Lifting動作は膝関節最大屈曲位を開始肢位とし,Squat法にて行った.Lifting動作は各Stretch実施前に5回,実施後に5回の計10回ずつ行った.Stretchは主に腰背部筋の伸張目的で行い,背臥位にて痛みを起こさず行える股・膝関節および体幹屈曲位を1) 2分間保持させる方法(以下,H-Stretch)と2) 30秒を4回反復させる方法(以下,R-Stretch)の2つの条件で行った.柔軟性の指標として,長座体前屈を各Stretch前後で測定した. 筋活動量はLifting動作5回のうち3回を加算平均し,重量物を最大挙上位置に引き上げるまでの高さ10%ごとの平均値を解析した.また,反応時間は,光刺激からの動作開始までの時間(以下,RT),光刺激から筋活動開始までの時間(以下,PMT),筋活動開始から動作開始までの時間(以下,MT)を解析した. 統計学的解析には,StatView-J 5.0(SAS社製)を用いた.データに正規性が認められたため,対応のあるt検定を行った.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 研究に先立ち,個人情報保護法に基づき,対象に測定の趣旨および内容を十分に説明し,同意を得た上で測定を行った.なお,本研究を行うにあたり,広島大学大学院 保健学研究科 心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得た.【結果】 LPのStretch前後の平均筋活動量は,H-Stretch条件では高さ0-30%までの3区間で有意に低い値を示したが(p<0.001),R-Stretch条件では各区間で有意差は認められなかった.また,RTでは両Stretch条件で有意差は認められなかった.PMTはH-Stretch条件のみ実施後の動作で有意に延長し(p<0.05),MTは有意に短縮した(p<0.05).R-Stretch条件は有意差が認められなかった.両Stretch条件とも長座体前屈運動では有意に増大した(p<0.05).【考察】 両Stretch条件は柔軟性を同程度向上させたが,筋活動量への影響や筋活動の開始に差を認めた.H-Stretch条件はLifting動作の初期に筋活動量の低下を起こし,さらに筋活動の開始を遅らせた.したがって,身体へ加わる負荷量は変化していないため,H-StretchはLPへの負担を増大した可能性があり,腰痛発症の危険性が高いと思われる.これに対し,R-Stretch条件では筋活動に影響を及ぼしていなかった.つまり,R-Stretch後のLPへの負担は変わらず柔軟性のみ向上できたと考えられる.これらのことから,傷害の予防目的で行うLifting動作前のStretchは,R-Stretchの方がH-Stretchより好ましいと思われる.しかしながら,本研究は筋電図学的に検討したものであって,運動学的および運動力学的検討は行っていない.今後,これらの検討を加味した上で腰痛予防の観点から,Stretchの有効性を結論付ける必要があると思われる.【理学療法学研究としての意義】 Lifting動作のみならず種々の要因で発症した腰痛患者に対し,理学療法の1つとしてStretchなどを実施する.本研究における筋電図学的観点からみたStretchの結果は,Stretchの実施法により身体に与える影響を十分に考慮することが重要であることを示したと思われる.本研究はLifting動作を行う多職種の者に対し,理学療法士が腰痛の予防法を加味したStretchを指導するときに,Stretchの実施法の選択理由を裏付けするうえで有意義であると考える.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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