着地時の足部接地方法が床反力および膝関節運動に与える影響
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概要
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【はじめに、目的】 着地動作は,一般に芸術分野として捉えられているバレエにおいても重要な動作である.バレエでは美的な観点から,空中で足関節最大底屈位を保持し足尖から足関節の全可動域を使って着地するという特有の技術を用いる.バレエダンサーは,未経験者と比較して衝撃の少ない着地が可能であり(McNitt-Gray et al,1992),着地動作が受傷機転となることが多い膝前十字靭帯損傷の発生率が少ないことが報告されている(Liederbach et al,2008).これらの要因として,先述したバレエ特有の足部接地方法が関与していることが考えられる.しかし,多くの研究では熟練したダンサーが対象であるため,バレエの全身的な要素が普遍の動作に影響している可能性もあり,バレエの足部接地方法そのものが着地動作に及ぼす影響について検討したものは見当たらない. 本研究の目的は,未経験者を対象に足関節最大底屈位からの着地により衝撃を減少できるか確認することである.仮説は,バレエでの着地方法は通常の着地方法と比較して鉛直床反力が減少するとした.【方法】 対象はバレエ経験を有さない健常成人女性6名(平均年齢23.3±0.5歳)とした.課題は,高さ30cmの台上から前方に設置した床反力計(AccuGait,AMTI)への両脚着地動作とした.着地方法として通常着地とバレエ着地の2条件,足部肢位として平行(parallel)と足部外転位(turn out)の2条件を設定した.なお,本研究ではバレエ着地を「空中では可能な限り足関節最大底屈位を保持し,足尖から着地すること」と定義した.測定項目は最大床反力,膝関節最大屈曲角度および足関節最大背屈角度,着地時間,足関節周囲筋の筋活動とした.床反力はサンプリング周波数200Hzにて記録し,鉛直成分の最大値を体重で正規化した値(N/kg)とした.対象の左側大転子,膝関節裂隙,外果,第5中足骨底にマーカーを貼付し,ハイスピードカメラ(FKN-HC200C,4 assist)3台を用いてサンプリング周波数200Hzにて着地動作を撮影した.動作解析ソフト(DIPP-Motion XD,DITECT)により,安静立位を0°として動作中の膝関節および足関節角度を算出した.着地時間は,接地から膝関節が最大屈曲位となるまでの時間とした.表面筋電図(Personal-EMG,追坂電子機器)を用い,サンプリング周波数1000Hzにて前脛骨筋,長腓骨筋,腓腹筋外側頭,ヒラメ筋,後脛骨筋の筋活動を記録した.解析には筋積分値を用い,接地から最大膝屈曲までの筋活動を最大等尺性収縮時の筋活動で正規化した値を算出した. 統計学的分析にはエクセルアドインソフト(Statcel2,オーエムエス出版)を使用した.各条件3試行分の平均値を分析に用い,着地方法と足部肢位を2要因とした二元配置分散分析を行った.有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 全対象に本研究の主旨を十分に説明し,書面にて同意を得た.なお,本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1089).【結果】 最大床反力は通常着地においてparallel 36.2±9.0N/kg,turn out 35.6±9.0N/kgとなり,バレエ着地においてparallel 27.0±5.1N/kg,turn out 28.5±5.8N/kgとなった.膝関節最大屈曲角度は通常着地においてparallel 74.1±9.3°,turn out 66.5±8.9°となり,バレエ着地においてparallel 86.1±10.6°,turn out 82.2±11.5°となった.着地時間は通常着地においてparallel 0.17±0.04秒,turn out 0.16±0.05秒であり,バレエ着地ではparallel 0.24±0.04秒,turn out 0.22±0.04秒となった.最大床反力(p<0.05),膝関節最大屈曲角度(p<0.01),着地時間(p<0.01)において着地方法による有意な主効果を認めたが,足部肢位による有意な主効果は認めなかった.足関節最大背屈角度と筋活動では2要因による有意な主効果を認めず,ほぼ同程度の値を示した.【考察】 バレエ着地では,通常着地と比較して最大床反力が減少することが示された.着地の衝撃と足関節可動域の関係について,足関節の他動的背屈角度が大きい場合は着地時の膝屈曲変位量が大きく,垂直床反力が小さいと報告されている(Fong et al,2011).本研究では,着地時の最大背屈角度に差はなかったが,より底屈位から着地することで足関節背屈方向の運動範囲が拡大,膝関節を屈曲できる時間が増大し,着地時間が有意に延長したと考える.筋活動に関しては,足関節周囲ではなく大腿など他の筋がより貢献したため差が生じなかった可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 意識的に足尖から接地する着地方法の指導により,床反力の減少や膝関節屈曲角度の増加といった即時的な効果が生じた.この着地方法は,衝撃吸収という観点では一般的な着地動作指導やトレーニングにおいても有効となる可能性がある.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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