末期変形性股関節症患者における膝関節痛の合併率と特徴について
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
【はじめに、目的】 変形性股関節症(以下股OA)患者の疼痛の訴えは股関節周囲のみではなく、膝関節など他関節へも及ぶことが多い。特に膝関節痛がリハビリテーションの阻害因子となることを臨床において経験する。股OA患者の膝関節痛合併率は46.6%という先行研究(上好ら、Hip joint、1992)があるが、痛みの程度や特徴に関する研究は少なく原因についても明らかにされていない。また、膝関節痛が股OA患者の運動機能へ与える影響に関する報告も少ない。そこで、本研究では末期股OA患者における膝関節痛の合併率、強さ及び運動機能との関係を調べることを目的とした。【方法】 2008年11月から2011年10月までに当院整形外科で人工股関節全置換術が予定された末期股OA患者のうち、手術前日に疼痛、運動機能の測定が可能であった117例(男性12例、年齢64.3±9.8歳)を対象とした。両側同時手術例、再置換例、及び10mの歩行が不可能であった症例は除外した。膝関節痛及び股関節痛の評価は動作時痛をVAS(Visual analog scale)を用い、0(痛み無し)から10(最大の痛み)で評価した。歩行速度は10m間の快適歩行速度と最大歩行速度を測定した。筋力はHand-held Dynamometer(アニマ社)を用い、股関節外転・屈曲筋力及び膝関節伸展筋力を測定した。股関節外転筋力は背臥位にて股関節内外転中間位、股関節屈曲筋力は端坐位にて股関節90°屈曲位、膝関節伸展筋力は端坐位にて股関節、膝関節90°屈曲位にて測定した。5秒間の等尺性収縮を2回ずつ測定し、最大値を体重で除して体重比を算出した。なお、いずれの評価でも手術予定側を患側、反対側を健側と定義した。解析方法は患側、健側それぞれの膝関節痛と年齢、Body mass index 、股関節痛、股関節外転筋力・股関節屈曲筋力・膝関節伸展筋力、快適歩行速度及び最大歩行速度との関係についてSpearmanの順位相関係数を算出した。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての対象者に対し、測定内容を説明し同意を得た。【結果】 膝関節痛合併率は左右いずれかの膝に痛みを有する症例91例(77.8%)、患側の膝に痛みを有する症例85例(72.6%)、健側の膝に痛みを有する症例59例(50.4%)及び両側の膝に痛みを有する症例53例(45.3%)であった。膝関節VAS平均値は患側2.7cm、健側1.3cmであった。CollinsらによりVASは3.0cm以上が中等度の痛み、5.4cmが厳しい痛みと定義されている。今回の結果ではVAS3.0cm以上を左右いずれかの膝に有する症例は50例(42.7%)、VAS5.4cm以上を有する症例は27例(23.1%)であった。また、患側膝関節痛は、患側股関節痛(r=0.21)、患側膝関節伸展筋力(r=-0.21)と有意な相関を認めた。健側膝関節痛は、健側股関節痛(r=0.28)、患側股関節痛(r=0.26)、快適歩行速度(r=-0.25)、最大歩行速度(r=-0.21)と有意な相関を認めた(P<0.05)。【考察】 本研究では股OA患者の約8割が左右いずれかの膝に疼痛を有しているという結果となり、先行研究で示された膝関節痛合併率である46.6%より多かった。先行研究では股OAの進行度は明記されていないが、本研究では末期股OA患者を対象としている。膝関節痛と股関節痛の間に弱い正の相関が認められており、股OAの進行に伴った股関節痛の増悪が膝関節痛出現の一因となる可能性も考えられる。また、股OA患者の約2割が厳しい膝関節痛を有しており、膝関節痛がリハビリテーションの阻害因子となりうる可能性が考えられた。股OA患者の膝関節痛の原因はまだ明確ではないが、関連痛や脚長差の影響、変形性膝関節症の合併及び下肢筋力低下などが考えられる。今後は疼痛の原因を検討した上でリハビリテーションによって疼痛改善が可能かどうかの検証が必要である。また、健側膝関節痛と歩行速度の間に弱い負の相関がみられた。先行研究(塚越ら、理学療法学、2009)では股OA患者の歩行速度に関連する因子として患側股関節外転筋力や患側股関節痛が報告されているが、本研究では健側膝関節痛も歩行速度に影響を及ぼす可能性が示された。股OA患者の歩行では患側立脚期時間が短縮するため、健側立脚期での支持性が歩行速度に影響する。健側膝関節痛が強いと健側立脚期の支持性が低下し歩行速度に影響を与える可能性も考えられる。先行研究では膝関節に疾患を有する患者を除外しているが、末期股OA患者は長期間に渡る脚長差や跛行により膝関節に負担がかかり膝関節疾患を合併する可能性が考えられるため、今回の結果はより末期股OA患者の特徴を示すデータと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 末期股OA患者の多くが膝関節痛を合併しており、膝関節痛が股関節痛や歩行速度などに影響を与えていることが明らかになったことで、隣接関節を含めた多角的なアプローチの必要性が再確認された。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
- 療養型病院における廃用症候群の予後予測
- 髄腔内バクロフェン治療(ITB)後の理学療法:―歩行可能な症例に対する評価とアプローチ―
- 理学療法士の職域拡大としてのマネジメントについて:―美容・健康業界参入への可能性―
- 脳血管障害患者の歩行速度と麻痺側立脚後期の関連性:短下肢装具足継手の有無に着目して
- 健常者と脳血管障害片麻痺者の共同運動の特徴:―異なる姿勢におけるprimary torqueとsecondary torqueの検討―