大腿骨近位部骨折患者における屋外歩行自立と関連している動作について
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概要
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【はじめに、目的】 屋外歩行自立に関わる動作として、健常高齢者や脳卒中患者を対象とした報告では、歩行速度や連続歩行距離が挙げられている。しかし大腿骨近位部骨折患者に関する報告は少ない。そこで本研究では、大腿骨近位部骨折患者において屋外歩行自立に関わる動作能力を探るべく、屋外自立群と非自立群の歩行能力やバランス能力を比較することを目的とした。【方法】 大腿骨近位部骨折で当院に入院し、屋内生活が自立レベルに達し自宅退院した者22名(頸部21名、転子部1名、男性2名、女性20名、平均79.0±6.6歳)を対象とした。手術適応患者19名(人工骨頭置換術15名、Compression Hip Screw2名、他2名)、保存療法3名であった。厚生労働省が定める障害高齢者の日常生活自立度判定基準に基づき、退院時の自立度より生活自立群(J群)および準寝たきり群(A群)の2群に分類し、2群間の動作能力を比較検討した。項目は、年齢、10m歩行速度、Berg Balance scale(BBS)合計点、BBS各項目の点数、Timed Up & Go test(TUG)、連続歩行距離、5m後進歩行の可否、障害物回避動作であった。連続歩行距離は、300m以上と300m未満に分類した。5m後進歩行は、直線5mのライン上を後ろ向きに歩行することが可能か否かを評価した。障害物回避動作は、高さ12cm奥行き20cmの台をまたぐか昇降して回避できるか否かを評価した。統計処理は、年齢、10m歩行速度、BBS合計点、TUGについて2群間の平均値の比較に対応のないt検定を、連続歩行距離、5m後進歩の可否、障害物回避動作についてFisherの直接確率検定を、BBS各項目の点数はMann-WhitneyのU検定用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に則り、対象者には本研究の趣旨を十分に説明し、同意を得て施行した。【結果】 J群は10名、A群は12名であった。平均年齢はJ群76.1±6.4歳、A群81.4±6.1歳でA群で年齢が高かった(p<0.05)。10m歩行速度はJ群0.88±0.28m/s、A群0.54±0.20m/sでJ群が速かった(p<0.05)。BBSはJ群48.8±4.0点、A群38.8±9.1点でJ群が高得点であった(p<0.05)。連続歩行距離はJ群で300m以上6名、300m未満4名、A群でそれぞれ2名、10名でありJ群で歩行距離が長かった(p<0.05)。5m後進歩行はJ群は全員が可能であったが、A群は可能7名、不可能5名でJ群の能力が高かった(p<0.05)。障害物回避動作は、J群は8名が自立していたのに対し、A群は自立1名でありJ群の方が高かった(p<0.01)。TUGには有意差を認めなかった。BBS各項目の点数に有意差は認めなかったが、段差踏みかえと片脚立位において他の項目よりも高い傾向を示した。【考察】 結果として、年齢、歩行速度、BBS得点、歩行距離、後進歩行、障害物回避動作に2群間の差がみられた。歩行速度や距離は健常高齢者や脳卒中患者を対象とした報告と同様に、屋外歩行能力と関連していることが示唆された。BBSは健常高齢者を対象とした報告では45点以上で実用歩行となり転倒の危険性がなく、37点未満で転倒の危険性が高いとされており、本研究でも類似した結果となった。後進歩行は健常高齢者を対象とした検討が行われており、所要時間が転倒リスク因子として有用であると報告されている。今回対象とした症例は転倒経験者で退院時における評価であるため、前述の対象者よりも身体機能が低下していることが想定され、所要時間や歩数を検討するには至らなかった。今回、後進歩行の可否に差を認めた事から、後進歩行の可否だけでも、屋外歩行の可否を検討するための評価として有用かもしれない。後進歩行が行えないのは、後方ステップや後方転倒誘発刺激に対する姿勢制御応答に関わる要素と類似している。これらには後方に重心移動をするための股関節や足関節戦略があり、前脛骨筋、大腿四頭筋、脊柱起立筋、大腿二頭筋が関与している。結果よりA群は、上記の筋群の働きが不十分であるために後方への移動が困難であることが示唆された。障害物回避動作にも有意差を認めた。BBS各項目の結果と合わせて解釈すると、片脚支持にて対側下肢を障害物上に乗せる、または障害物をまたぐことが出来る能力が屋外歩行自立と関連していると考えられた。過去の報告ではPerryらが地面の高さ変化と不規則性に応ずる能力、障害物を回避する能力が移動性能力障害のレベルを決定する要因である述べている。また、Lerner-Frankielらは自立して高さ18~20cmの縁石を越える能力が地域歩行の可否に重要であると述べている。今回の結果でも上記の報告と類似した結果となり、障害物回避動作が屋外歩行自立と関連していることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究より、大腿骨近位部骨折患者において後進歩行や障害物回避動作が屋外歩行自立に関連する動作であることが示唆された。これらについて詳細に検討されたものは少なく、退院時の屋外歩行能力をみる指標として有用であるといえる。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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