デスクワークにおける上肢肢位が上腕骨外側上顆に与える影響
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概要
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【はじめに、目的】 近年、PC操作等のデスクワークにより上腕骨外側上顆に疼痛を訴える症例が増えている。先行研究によると、不良姿勢での上肢使用により橈側手根伸筋や総指伸筋の筋収縮による反復ストレスが上腕骨外側上顆での部分剥離や筋の小断裂を引き起こすとされている。しかし、これまでに上腕骨外側上顆にストレスをかける上肢肢位については明らかとされていない。そこで、本研究ではデスクワークを想定した座位姿勢において肩・肘関節の角度を設定し、手関節に負荷をかけた際の橈側手根伸筋と総指伸筋の活動電位を測定することで、上腕骨外側上顆にストレスをかける上肢肢位についての調査、検討を行った。【方法】 対象は上肢疾患のない健常成人19名(年齢25.6±3.3歳)の右上肢19肢とした。測定開始肢位は股関節屈曲90°、膝関節屈曲90°の端座位において肩関節屈曲30°、矢状面上での肘関節屈曲60°とし、前腕を水平な台上に置いた前腕回内位(以下、肩中間肢位)とした。その肩中間肢位において手関節遠位の掌側面で1.0kgの錘垂を母指を除いた第2~5指のMP、PIP、DIP関節屈曲にて把持し、手関節の自動背屈により錘垂を台から1.0cm浮かせたところで保持させ(以下、課題動作)、橈側手根伸筋と総指伸筋の活動電位を5秒間測定した。同様の測定を肩中間肢位から肘頭を支点として尺骨長軸を水平面上で20°内側方へ移動させた肢位(以下、肩内旋肢位)と20°外側方へ移動させた肢位(以下、肩外旋肢位)においても行った。活動電位の測定にはNoraxon社製Myotrace400を使用し、同一検者が橈側手根伸筋と総指伸筋の筋腹に電極を貼り付け、3肢位でランダムに2回ずつ測定を行った。その後、測定した5秒間から筋電図の波形が安定した3秒間の活動電位を抽出し、整流化、スムージング処理を行った後に筋電積分値の平均を算出した。統計処理にはSPSS 12.0J for Windowsを用い、3肢位での筋電積分値に対して対応のある一元配置分散分析を行い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者にはヘルシンキ宣言に基づいて研究の主旨を十分に説明し、同意を得た上で研究を行った。【結果】 課題動作における橈側手根伸筋の筋電積分値は肩内旋肢位、肩中間肢位、肩外旋肢位の順に高値となり、3肢位間の全てにおいて有意差が認められた。総指伸筋の筋電積分値においても肩内旋肢位、肩中間肢位、肩外旋肢位の順に高値となり、肩内旋肢位と肩中間肢位、肩内旋肢位と肩外旋肢位との間に有意差が認められたが、肩中間肢位と肩外旋肢位との間に有意差は認められなかった。【考察】 手関節背屈を基本とした課題動作において、肩内旋肢位から肩外旋肢位となるにつれて橈側手根伸筋と総指伸筋の筋電積分値が高くなる傾向にあった。このことより、把持動作を伴う手関節背屈運動では、肩外旋肢位は肩内旋肢位と比べて橈側手根伸筋と総指伸筋の筋活動量が増大しやすく、両筋・腱に負担がかかることが示唆された。近年のデスクワークではPCを体の正面に置くことが多く、マウス操作や書字動作は本研究で設定した肩外旋肢位となることが多いと考える。また、それらの動作は物を把持して手関節背屈運動を繰り返す動作であり、橈側手根伸筋と総指伸筋の筋収縮が繰り返されるため、上腕骨外側上顆や両筋・腱にストレスが蓄積して疼痛が発生すると考える。よって、デスクワークにおいてマウス操作や書字動作を行う際には、肘頭を支点として前腕を外側方へ移動させた肩外旋肢位で行うのではなく、肘頭自体を外側方へ移動させた肩内旋肢位で行うことで上腕骨外側上顆にかかるストレスを軽減させることができ、疼痛の発生を予防できると考える。橈側手根伸筋では3肢位間の全てにおいて有意差が認められ、総指伸筋では肩内旋肢位と肩中間肢位、肩内旋肢位と肩外旋肢位との間に有意差が認められた。肩外旋肢位では上腕骨内側上顆と上腕骨外側上顆を結んだ線(以下、顆間線)が水平面上で肩関節外旋方向に回旋している。先行研究によると、上腕骨の顆間線が水平面上で肩甲骨面から逸脱すると肩関節周囲筋のみならず前腕筋群の張力も発揮しづらくなるとされている。よって、肩甲骨面上を上腕骨の顆間線が逸脱する肩外旋肢位ほど橈側手根伸筋と総指伸筋の筋活動量が増大したと推察する。しかし、これらについての詳細な調査・検討は今後の課題とする。 【理学療法学研究としての意義】 上肢肢位を橈側手根伸筋と総指伸筋の筋活動量を増大させる肩外旋肢位としてデスクワークを行うことが、上腕骨外側上顆や両筋・腱にストレスを蓄積することにつながり、疼痛発生の一要因となることが示唆された。理学療法士がデスクワークにおいて上腕骨外側上顆に疼痛を訴える症例に対して、肩内旋肢位で上肢を使用するよう指導することが疼痛の改善につながり、疼痛発生の予防の一助にもなると考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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