自然下垂位における上腕回旋角が肩関節前方挙上角度に及ぼす影響について:─肩腱板断裂術後経過からの一考察─
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概要
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【目的】 臨床において、自然下垂位における肩甲骨と上腕骨の相対的な位置はさまざまであり、この位置の違いが肩の機能回復に影響しているのではないかと感じる。我々は先行研究において肩腱板断裂術後症例の自然下垂位での肩甲骨に対する上腕骨のアライメント(以下、上腕回旋角)と前方挙上角度の関係について調査した。その結果、自然下垂位での上腕回旋角が内旋位だと、肩関節前方挙上角度が大きく、自然下垂位での上腕回旋角が外旋位だと肩関節前方挙上角度が小さい傾向があることを報告した。今回、我々は術後自動運動開始時の上腕回旋角が肩関節前方挙上角度および上腕回旋角の術後経過に与える影響について調査検討したので報告する。【方法】 対象は当院にて肩腱板断裂と診断され、鏡視下腱板修復術を施行した50例で、広範囲断裂、経過観察困難な症例は対象から除外した。上腕回旋角の測定は、立位での自然下垂位にておこなった。水平面より基本軸を肩甲棘とし、移動軸を上腕骨内・外側上顆を結んだ線(以下、内外顆線)とし両線がなす角度をゴニオメーターにて2回ずつ測定し、平均値を求め上腕回旋角と定義した。肩甲棘と上腕骨内外顆線が平行になっている場合を0度と規定し、内外顆線が外側に向いている場合を-とし、内側を向いている場合を+とした。続いて、自動前方挙上角度を日本整形外科学会の測定に準じてゴニオメーターにて測定した。測定はすべて同一検者が行った。さらに術後5週(自動運動開始1週後)の時点で、上腕骨が肩甲骨に対して内外顆線が0度以下であった23例(上腕回旋角:-4.3±4.0°、年齢:64.7±7.2歳)を外旋位群、0度より大きかった27例(上腕回旋角:9.2±3.0°、年齢:65.6±8.1歳)を内旋位群と2群に分けた。各症例の自動前方挙上角度と上腕回旋角術後1ヶ月、5週、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月の6回計測し、統計学的検討には二元配置分散分析およびScheffeの多重比較検定を用いて、内旋位群と外旋位群を比較検討した。なお有意水準は1%とした。また、両群間に断裂サイズおよび術前前方挙上角度に有意差は認められなかった。【説明と同意】 すべての対象者に対して研究の趣旨を説明し、同意を得た上で研究を行った。【結果】 前方挙上角度は、外旋位群1ヶ月34.3°、5週48.3°、2ヶ月71.3°、3ヶ月90.0°、4ヶ月102.4°、5ヶ月111.1°であり、内旋位群1ヶ月56.0°、5週87.1°、2ヶ月109.0°、3ヶ月124.4°、4ヶ月130.2°、5ヶ月137.1°であった。術後経過に有意差が認められ、またいずれの測定期間において2群間に有意差を認めた(p<0.01)。 上腕回旋角は、外旋位群は1ヶ月1.5°、5週-4.3°、2ヶ月0.0°、3ヶ月2.2°、4ヶ月、5.0°、5ヶ月5.2°であった。外旋位群は術後5週において、上腕骨が肩甲骨に対して外旋位であったが術後経過と共に内旋位へ移行していた。内旋位群は1ヶ月6.5°、5週9.2°、2ヶ月10.0°、3ヶ月9.8°、4ヶ月10.4°、5ヶ月9.2°であった。内旋位群は術後の経過において上腕骨が肩甲骨に対して内旋位であった。また2群間においていずれの測定期間において2群間に有意差を認めた(p<0.01)。【考察】 立位での自然下垂位において、肩甲骨に対して上腕骨が外旋位にあると内旋位と比べ肩関節前方挙上角度が改善しにくいことが明らかになった。術後において腱板機能が低下している状態では、外旋位は内旋位より上腕骨が関節窩に対して求心位を取りにくいためと推察した。また前田は解剖・運動学的に棘上筋は上腕骨の回旋軸よりも前方を通ることより、筋収縮による合力は上腕骨の回旋軸よりも前方に働いていると考えられ、前方挙上作用を担っていると報告している。前方挙上動作だけでなく、自然立位での肩甲骨に対する上腕骨の位置を評価することも重要であることが示唆された。 また、前方挙上の改善に伴い、上腕回旋角は肩甲骨に対して内旋位に位置していたことからも自然下垂位で肩甲骨に対して上腕骨が外旋位にあると前方挙上しづらい環境である。したがって、術後の理学療法において前方挙上の可動域制限の改善のみでなく、自然下垂位の上腕回旋角が内旋位になるように、術後の理学療法において腱板修復の病態も考慮し、まずは自然下垂位での挙げるための環境を整える理学療法を進めることが好ましいと考えられる。今後は上腕回旋角に影響する因子を調査検討し、鏡視下腱板修復術の術後理学療法を円滑に進める一助としたい。【理学療法学研究としての意義】 自然立位において肩甲骨に対する上腕骨の回旋肢位を評価することは可動域獲得の一助になることが示唆された。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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