不安定板上での立位姿勢制御能力の加齢変化:─制御方向による違いおよび二重課題条件下の変化について─
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
【はじめに】 高齢者の転倒予防や日常生活活動量向上のためには、不安定な支持面上での姿勢制御といった様々な条件下での姿勢制御能力を維持・向上することが重要である。しかしながら、加齢によって不安定な支持面上での立位姿勢制御能力がどのように変化するのかについて、前後方向および左右方向の制御方向による違いや、二重課題条件下での変化などに着目して詳細に検討した報告はみられない。そこで本研究は不安定な支持面上での立位姿勢制御能力の加齢変化について、特に制御方向による違いと二重課題条件下での変化に着目して検討した。【方法】 健常若年者22名(男性17名、女性5名、平均年齢21.3±1.1歳)および健常高齢者17名(男性3名、女性14名、平均年齢83.6±6.4歳)を対象とした。姿勢制御能力の測定に大きな影響を及ぼすほどの重度の神経学的障害や筋骨格系障害および認知機能障害を有する者は対象から除外した。不安定板上での立位姿勢制御能力の評価は、不安定板に加速度計が取り付けられたディジョックボードプラス(酒井医療社製)を用い、不安定板を前後方向にのみ傾斜できる設定と左右方向にのみ傾斜できる設定の2条件で測定を行った。開眼開脚でできるだけ不安定板を水平に保持するよう指示し、20秒間立位保持した際の不安定板の傾斜角度をサンプリング周波数40Hzでコンピュータに取り込み、平均角度変動、総角度変動、平均変位角度を求めた。なお、平均角度変動は測定中に傾斜した角度の絶対値を平均した値で不安定板の動揺の大きさを示し、総角度変動は測定中に傾斜した角度の総量、平均変位角度は測定中の傾斜角度の平均値を示す。二重課題条件下の評価として、簡単な認知課題(語想起課題)をしながら、できるだけ不安定板を水平位に保持するようにして不安定板上で20秒間立位保持させた時の不安定板傾斜角度を測定した。前後方向および左右方向の傾斜条件それぞれについて、認知課題を付加しない単純課題に対する二重課題の変化率[(二重課題-単純課題)/単純課題×100]を求めた。統計学的検定にはMann-Whitney testを用い、各項目について若年者と高齢者との比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 すべての対象者に本研究の十分な説明を行い、同意を得た。なお、本研究は本学の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 単純課題の平均角度変動は前後方向では若年者が1.1±0.5度、高齢者が1.9±1.2度であり、若年者と比較して高齢者では有意に高い値を示したが、左右方向では若年者が1.0±0.5度、高齢者が1.6±1.1度であり、2群間に有意差はみられなかった。また、平均変位角度は前後方向では若年者が0.19±1.5度、高齢者が-2.6±2.9度と高齢者で有意に低い値を示したが、左右方向では2群間に有意差はみられなかった。また、単純課題に対する二重課題の変化率について、平均角度変動は前後方向・左右方向ともに若年者と高齢者との間に有意差はみられなかった。一方、総角度変動については前後方向が若年者11.8±17.6%、高齢者-6.9±17.8%、左右方向が若年者8.1±14.9%、高齢者-5.3±16.3%であり、前後方向・左右方向ともに若年者と比較して高齢者では有意に低い値を示した。【考察】 本研究の結果、前後方向の平均角度変動は若年者と比較して高齢者では有意に高い値を示したが、左右方向では2群間に有意差はみられなかったことから、高齢者では左右方向よりも前後方向の姿勢制御能力が低下していることが示唆された。不安定板を水平に保つ姿勢制御において、左右方向は股関節での制御による左右の重みの釣り合いによって制御可能であるが、前後方向は足関節底背屈運動による制御が必要となる。高齢者においては足関節での制御能力が低下し、股関節での制御で代償する傾向にあるため、足関節での制御が必要な前後方向でのみ姿勢制御能力低下がみられたと考えられた。さらに、前後方向の平均変位角度が高齢者では負の値を示していたことから、高齢者では不安定板を後方に傾斜させて制御する傾向がみられた。また、二重課題条件下の総角度変動の変化率をみると高齢者では若年者より低く、負の値を示したことから、二重課題になると高齢者では下肢筋の同時収縮が強まり、不安定板を積極的に素早く動かして調節することができなくなることが推測された。【理学療法学研究としての意義】 不安定板上での立位姿勢制御能力の加齢変化を分析した結果、高齢者においては前後方向の姿勢制御および二重課題条件下での姿勢調整が困難となることが示唆された。加齢による姿勢制御能力低下に対する理学療法においては、このような様々な条件下で評価・介入することも重要と考える。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
- 療養型病院における廃用症候群の予後予測
- 髄腔内バクロフェン治療(ITB)後の理学療法:―歩行可能な症例に対する評価とアプローチ―
- 理学療法士の職域拡大としてのマネジメントについて:―美容・健康業界参入への可能性―
- 脳血管障害患者の歩行速度と麻痺側立脚後期の関連性:短下肢装具足継手の有無に着目して
- 健常者と脳血管障害片麻痺者の共同運動の特徴:―異なる姿勢におけるprimary torqueとsecondary torqueの検討―