地域高齢者における1年後のIADL低下と歩行能力、体幹機能との関連
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
【はじめに、目的】 高齢期において自立生活を継続するためには、IADL(Instrumental Activity of Daily Living)の維持が必要とされる。歩行能力に代表される身体機能はIADLとの関連が示されており、IADL低下の初期兆候は身体機能の低下にも現れるとされる。我々は、座位での側方への体幹反復運動の速さ(第46回本学術集会にてSeated Side Tapping testとして訂正報告、以下SSTと略す)が、歩行速度およびTimed up & go test(以下TUG)と相関関係にあり、横断的にIADLと関連することを明らかにしてきた。本研究では、IADLと歩行能力およびSSTの関連を縦断的に検討することを目的とした。【方法】 大学で実施する体力測定会に参加した地域住民のうち、以下の組み入れ規準を満たし、ベースラインとなる2010年と1年後の2011年共に参加した105名(女性75名、平均73.0歳、60―88歳)を分析対象者とした。組み入れ規準は、ベースライン時に60歳以上、日常生活が自立している、歩行に補助具を使用していない、上肢機能に問題のないこととした。IADLはLawtonのIADL評価尺度(8点満点)を自記式にて調査した。合わせて、IADLに影響を与えると報告される年齢、視聴覚障害(日常生活に支障があるか否かの二値)、うつ傾向(GDS-5)を調査した。歩行能力は、5m通常歩行とTUGを測定した。通常歩行の測定は11m歩行路上の中央5mの所要時間を計測した。4試行行ない、最良値を代表値として採用した。TUGは、原典の計測方法に準じて行ない、口頭指示は「転ばないよう、安全にできる速さで行なってください。」とした。3試行のうち最良値を採用した。SSTの計測方法は、過去の報告と同様、対象者を背もたれのない座面高41cmの椅子に着座させ、両上肢を側方挙上させた状態で指尖から10cm遠方かつ72cm高に目標物を設置した。記録は、出来るだけ速く交互に10回たたく所要時間を計測した。測定開始は測定者のかけ声時、測定終了は10回目を叩き終わった時点とした。統計学的解析は、ベースラインと1年後の歩行能力とSST成績の比較には対応のあるt-test、IADLの変化と歩行能力およびSSTの関連性の検討には、1年後のデータからベースライン時データを減算した差分IADLを従属変数に、独立変数に年齢、性、GDS-5、視力障害、聴力障害、加えて差分通常歩行とベースライン時の通常歩行を投入した重回帰分析をおこなった。なお、身体機能間の相関が高いため、TUGおよびSSTについて、それぞれ別に差分値とベースライン時の成績を投入した解析を行なった。なお有意水準は5%未満とし、統計解析ソフトはSPSS 14.0 Jを用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 研究目的および測定内容について個別に説明し、研究への協力に対して書面で同意を得た。なお、本学研究倫理委員会の承認済みである。【結果】 身体機能の変化は、5m通常歩行が3.5秒→3.5秒、TUGが6.5秒→7.2秒(p < 0.001)、SSTが5.0秒→5.7秒(p < 0.001)を示し、通常歩行を除いて加齢による有意な低下が確認された。IADLはベースライン時に満点者80人(76%)、1年後も80人、変化については、1点低下したもの8名(7.6%)、1点改善したもの2名(2%)であった。重回帰分析の解析結果、IADL変化に関連した要因は、3モデル全てにおいて身体機能のみが有意な関連要因であった。通常歩行のモデル式では、ベースライン時の成績が標準偏回帰係数-2.17(p < 0.05)、TUGのモデル式ではベースライン時成績-1.85 (p = 0.06)、その他の因子は有意ではなかった。SSTでは、SSTの変化(差分SST)のみが有意であり、標準偏回帰係数-2.10であった。【考察】 地域で自立生活を営む高齢者において、通常歩行速度は1年間で加齢変化を認めないものの、TUGと、座位での俊敏な体幹機能を計測するSSTは有意な機能低下が確認された。IADLの変化に対して、通常歩行とTUGを身体機能とした場合は、ベースライン時の不良な成績が1年後のIADL低下を予測しており、先行研究と同様であった。一方、SSTとIADL変化を検討した場合、ベースライン時の成績ではなく、SSTの変化(差分)が有意に関連していたことから、SSTの成績を維持、改善させることがIADL低下を防ぐ可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 体幹機能の加齢変化を確認したことに加え、IADLの低下を防ぐ座位での運動療法の要素を報告した点。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
- 療養型病院における廃用症候群の予後予測
- 髄腔内バクロフェン治療(ITB)後の理学療法:―歩行可能な症例に対する評価とアプローチ―
- 理学療法士の職域拡大としてのマネジメントについて:―美容・健康業界参入への可能性―
- 脳血管障害患者の歩行速度と麻痺側立脚後期の関連性:短下肢装具足継手の有無に着目して
- 健常者と脳血管障害片麻痺者の共同運動の特徴:―異なる姿勢におけるprimary torqueとsecondary torqueの検討―