人工膝関節全置換術施行患者における多施設間共通評価表の信頼性の検討
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概要
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【目的】 人工膝関節全置換術(以下TKA)施行患者は年間7万例と言われており、人口の高齢化が進むに伴い今後も増加することが予測される。このため、術後理学療法の標準化には統一した評価が必要と考えられる。1980年代以降、患者の主観的な評価を医療介入効果のアウトカム指標とする試みが活発になり、健康関連QOL(Health-Related Quality of Life:以下HRQOL)を評価する自己評価尺度が開発されてきた。このような流れから、医療者による評価だけでなく、患者自身の主観的な評価も実施されてきている。当院では2010年4月よりTKA症例に対して、本学附属4病院(以下4病院)で共通の機能評価表および患者の主観的な評価で構成された問診表を作成し、TKA前後の評価を統一する試みを開始している。本研究の目的は、この問診表の内的整合性を検証することである。【方法】 2010年4月から2011年7月までに4病院において、変形性膝関節症と診断され、片側TKAを施行した症例を対象に後方視的に調査した。当問診表は、自己記入式の質問紙法であり、「生活動作」、「疼痛」、「満足度」の3下位尺度について5段階スケール(楽にできる、痛くない、満足:5点~できない・やっていない、激しく痛む、不満足:1点)で回答する形式である。下位尺度の項目はWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)日本語翻訳版の「疼痛5項目」、「こわばり2項目」、「機能17項目」の計24項目とEuroqol5-Dimension(EQ-5D)の5項目 およびMedical Outcome Study Short-Form 36-Item Health Survey(SF-36)の全36項目を参考に、「生活動作16項目」、「疼痛8項目」、「満足度7項目」の全31項目を新たに設定した。調査内容は、術前、術後3週、術後8週、術後12週の各評価時期における問診表の3下位尺度の各項目の点数とした。問診表の全項目に回答可能であった症例は、術前64例(平均年齢74±7.6歳、男性11例、女性53例)、術後3週77例(平均年齢75±7.6歳、男性12例、女性65例)、術後8週60例(平均年齢74±7.3歳、男性9例、女性51例)、術後12週48例(平均年齢75±8.1歳、男性6例、女性42例)であった。各評価時期における3下位尺度それぞれの内的整合性を検討するためクロンバックのα係数を用いて算出した。【倫理的配慮】 本研究は本学倫理委員会の承認を得て、ヘルシンキ宣言に則り実施した。【結果】 クロンバックのα係数は「生活動作」:術前0.95、術後3週0.94、術後8週0.95、術後12週0.96、「疼痛」:術前0.85、術後3週0.89、術後8週0.91、術後12週0.93、「満足度」:術前0.81、術後3週0.86、術後8週0.86、術後12週0.89となり、高い内的整合性が認められた。【考察】 本研究結果は、橋本らがTKA症例を対象とした報告によるWOMAC下位尺度のクロンバックのα係数(身体機能0.93、疼痛0.83)と同等の結果を示し、問診表の高い内的整合性が得られ、信頼性の高さが示された。今後は、当問診表がTKA症例のHRQOLの指標として妥当性があるものか、疾患特異的HRQOL尺度であるWOMACや包括的HRQOL尺度であるSF-36などの他の自己評価尺度と比較検討する必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 諸外国ではTKA症例のHRQOLに関する縦断的報告は散見されるが、術前から術後早期に評価を実施している報告はない。また、本邦ではTKA症例の身体機能とHRQOLを同時に評価している縦断的研究は少ない。当評価表は、理学療法士が実施する機能評価表と患者自身が自己記入する問診表から構成されており、多施設間で術前から術後3週、術後8週、術後12週と縦断的に評価することが可能である。このことは、TKA症例の予後予測や理学療法の標準化において意義があることと考える。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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