人工膝関節全置換術後患者の身体機能,健康関連QOLおよび身体活動セルフ・エフィカシーの回復過程とその関連性
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概要
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【はじめに、目的】 健康関連QOL(HRQOL)を向上させる因子の一つとして,身体活動セルフ・エフィカシー(SE)が注目されている。SEとはBanduraによると「ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことができるかという個人の確信」と定義されている。特に運動や身体活動に関するSEは,身体活動や行動変容や運動の継続,更にはHRQOLに関係するとされている。しかしながら人工膝関節全置換術(TKA)患者に対して,身体活動SEが身体機能およびHRQOLに及ぼす影響について明らかにされていない。本研究の目的はTKA後のリハ介入における身体機能,HRQOLおよび身体活動SEの回復過程とその関連性について明らかにすることである。【方法】 対象は2010年10月から2011年7月までに当院でTKAを施行した変形性膝関節症患者44例48膝とした。手術時年齢は73.2±7.7歳,BMI26.1±3.5 kg/m2,術後在院日数25.2±5.3日,術後リハは当院プロトコールに準じて術後3ヶ月間外来リハを実施した。身体機能評価としてTimed Up and Go test(TUG),開眼片脚起立時間,膝伸展筋力を測定した。HRQOLの評価指標としてSF-36の下位8尺度である身体機能(PF),日常役割機能-身体(RP),体の痛み(BP),全体的健康感(GH),活力(VT),社会生活機能(SF),日常役割機能-精神(RE),心の健康(MH)と身体的サマリースコア(PCS)と精神的サマリースコア(MCS)を用いた。身体活動SEは虚弱高齢者の身体活動SE尺度(歩行,階段,重量物)とその総合得点を用いた。評価は術前,術後1ヶ月(退院時)と3ヶ月(外来通院時)とした。統計解析は回復過程を一元配置分散分析とBonferroni多重比較,身体機能およびHRQOLと身体活動SEとの関連性に関しては各変化量をpearsonの相関係数を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院生命倫理委員会の承認(0826)を受け,対象者に研究内容の説明文書を用いて口頭による説明を行い,研究参加への同意を得て実施した。【結果】 各項目は術前(T1)→術後1ヶ月(T2)→術後3ヶ月(T3)の順に平均値±標準偏差で示した。TUGは11.8±3.8→11.7±3.8→10.5±3.3秒となりT1とT3,T2とT3で有意に改善した。開眼片脚起立時間は13.3±19.3→20.8±26.1→23.2±31.8秒となりT1とT3で有意に向上した。膝伸展筋力は0.5±0.2→0.5±0.1→0.6±0.1N・m/kgとなりT2とT3で有意に向上を認めた。SF-36の下位尺度のうち,PFは37.7±20.8→40.6±25.6→52.5±20.3点,BPは35.1±15.3→36.2±19.2→49.8±21.2点,SFは53.9±27.1→56.8±25.3→69.8±23.5点となりT1とT3,T2とT3で有意に改善を認めた。GHは48.8±13.6→53.5±14.5→54.1±16.5点となりT1とT3で有意に改善を示した。PCSは16.5±12.5→15.3±14.6→23.1±16.1点となりT1とT3,T2とT3で有意に改善した。身体活動SEのうち,歩行SEは12.4±5.0→14.9±6.4→15.9±5.3点,階段SEは8.9±5.2→10.4±5.2→12.5±5.1点,重量物SEは14.1±5.9→15.7±5.3→17.3±6.1点となりT1とT3で有意に向上した。身体活動SEの総合得点では35.4±12.5→41.1±13.1→45.6±12.8点となりT1とT2,T1とT3で有意に向上を認めた。身体活動SEの総合得点とHRQOLとの関連性はPF,RP,BP,RP,GH,REおよびPCSと有意な正の相関を示した(r=0.307~0.508,p<0.05)。身体活動SEの総合得点と身体機能の各項目とは有意な相関が見られなかった。【考察】 身体機能,HRQOLおよび身体活動SEは時間経過とともに有意に改善を示した。退院時では十分な改善が得られず,退院後もリハの継続が必要になると考える。身体機能と身体活動SEはHRQOLと関連性があり,身体機能とは関連性がないことが示唆された。HRQOLを向上させるためには,身体機能に加え,身体活動SEを高めるような方策を積極的にリハに組み入れていく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 TKA後のリハは身体活動SEを高めるアプローチを加えることで,TKA患者のHRQOLを向上させることが可能になると考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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