下肢筋力測定・訓練器による運動負荷前後の大腿四頭筋の緊張評価
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概要
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【目的】 大腿四頭筋の緊張増加はオスグッド・シュラッター病をはじめとする成長期の膝関節のスポーツ障害の発生要因のひとつであると考えられている。これまで、大腿四頭筋の緊張は筋硬度計を用いて評価されることが一般的であったが、ほとんどの場合、筋硬度計で示される値に統一された単位がなく、筋硬度計間の値の比較が困難であった。我々はこれまでに床反力計を用いることで大腿四頭筋の緊張の定量的評価が可能であることを報告しているが(田中ら、2000)、床反力計は操作や持ち運びの困難さから、スポーツ現場で用いることが難しいという欠点があった。そこで持ち運び可能で、かつタッチパネルで容易に操作可能な「下肢筋力測定・訓練器(アルケア社)」を応用し、大腿四頭筋の緊張をトルク値で表すことを可能とした。この測定値は筋硬度計で得られた数値と有意な相関が認められることから、大腿四頭筋緊張の定量的評価を可能とした(梨本ら、2011)。本研究では、大腿四頭筋の緊張変化が運動負荷によりどのように変化するのかを下肢筋力測定・訓練器を用いて明らかにすることを目的に行った。さらに、成長期の膝関節のスポーツ障害は男性に多いという特徴があることから、男性と女性において運動負荷により、大腿四頭筋の緊張の変化がどのように異なるのかも検討した。【方法】 対象は健常大学生で男性20名(平均年齢20.0±3.3歳)、女性20名(平均年齢19.3±0.7歳)の合計40名とした。大腿四頭筋の緊張(以下、Q-tension)の測定は、下肢筋力測定・訓練器を用いて行った。対象は測定下肢を上にした壁向きの側臥位とし、股関節屈曲0°で固定し、測定側下肢を膝関節屈曲135°位とさせた。下肢筋力測定・訓練器は垂直に固定できる固定台に設置して使用した。対象の測定側外果2cm近位に下肢筋力測定・訓練器のパッドが当たるように配置し、膝関節が屈曲135°位から伸展方向に戻ろうとする力の計測を実施した。計測した値に膝関節から測定点までの距離の積すなわちトルク値(Nm)としてQ-tensionを算出した。運動負荷はCybexを使用した。事前に安静時の60°/secでの等速性膝伸展筋力を計測し、その最大膝伸展トルクの30%以下になるまで60°/secの等速性膝屈伸運動を反復させた。運動負荷後にも同様に60°/secの等速性膝最大伸展トルクを計測し、運動負荷前後の筋力測定を行った。統計学的分析には、男女の比較にはstudentのt検定、運動負荷前後の比較には対応のあるt検定を用いた。Q-tensionと筋力の比較にはピアソンの相関係数の検定を行った。いずれも危険率5未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全対象に対し事前に本研究の内容と方法を口頭および書面にて説明し同意を得た。なお、本研究は新潟リハビリテーション大学倫理委員会(承認番号43)の承認を得た。【結果】 安静時のQ-tensionの値は、男性(8.7±3.5Nm)で女性(5.1±1.4Nm)よりも有意に高値を示した(p<0.01)。運動負荷後、男性女性ともに筋力は有意に低下していた(男性11.9±6.2Nm、p<0.01、女性6.8±1.8Nm、p<0.05)。運動負荷後のQ-tensionは、安静時と比較して男性では0.4~11.6Nm、女性では0~4.1Nmの増大が見られ、女性よりも男性で有意に変化量が大きかった(p<0.05)。Q-tensionと筋力の間には有意な相関関係がみられなかった。【考察】 安静時のQ-tensionは男性で女性よりも高値を示したため、男性の方が女性よりも大腿四頭筋の筋緊張が高いことが示された。先行研究において、田中らや梨本らによる報告と同様であり、本研究においても、男性の大腿四頭筋の緊張の特性を捉えることができたと考えられる。加えて、筋力測定の結果より男性女性ともに運動負荷後には筋力が有意に低下していたことから、安静時の最大膝伸展トルクの30%以下になるまで60°/secの等速性膝屈伸運動を反復させることで、大腿四頭筋に疲労を生じさせることができたことが確認できた。Q-tensionは運動負荷後に男性女性ともに有意に増大したが、男性における変化量が大きかったことから、男性の方が女性と比較して、運動負荷により大腿四頭筋の緊張が高くなりやすいことが考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究では、下肢筋力測定・訓練器を用いることで運動負荷により大腿四頭筋の緊張の変化を示すことができた。今後は本装置を用いて大腿四頭筋に対するストレッチング効果を検討することで、大腿四頭筋の緊張増加が要因となる成長期のスポーツ障害の予防に役立てたい。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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