外反母趾に対する電気刺激による経時的変化
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概要
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【はじめに、目的】 外反母趾(Hallux valgus)が進行し、外反母趾角(Hallux valgus angle: HVA)が増大すると、歩行能力やADLに支障をきたす可能性があり、早期からの対策が必要である(外反母趾ガイドライン、2008)。外反母趾の運動療法として、随意的な母趾外転運動を継続することが有効であると報告されている(佐本ら、2003)。筆者らは、母趾外転運動が随意的に不可能な症例に、運動を行うきっかけとして、1回15分間の母趾外転筋に対する電気刺激を加えた運動療法が有効であることを報告した(2011)。母趾外転運動が不可能な者は、1回の電気刺激によって、母趾外転位ができるようになるが、時間の経過とともに保持が困難になる。そのような者には、母趾外転筋への電気刺激を継続することで、運動療法の効果をさらに高めることができるのではないかと考えられる。本研究の目的は、HVAが20°以上で随意的な母趾外転運動が不可能な者に対して、母趾外転筋への電気刺激を加えた運動療法を継続することで、運動療法の効果を高めることができるかを検証することである。仮説として、電気刺激実施ごとに安静時および母趾外転時のHVAは減少し、母趾外転筋の筋力、筋活動量は増加するとした。【方法】 対象は、随意的な母趾外転運動が不可能な6名、(女性5名、男性1名)12足とした。対象者の年齢(mean±SD)は23.6±4.6歳であった。複合治療器(Dynatron 950 plus、ダイナトロニクス社)を用い電極を母趾外転筋のモーターポイントを刺激するように貼付した。2、500Hzの群波形をバーストさせ、周波数50Hz、パルス幅10msec、立ち上がり時間1秒、下降時間1秒とし、10秒の通電と10秒の休止を繰り返し実施した。通電中は刺激に合わせ、随意的に母趾外転運動を行った。電気刺激の頻度は、1日1回15分間、期間は2週間で計6回実施することとした。電気刺激前ならびに、6回それぞれの電気刺激後に、安静時および母趾外転運動時のHVAを三次元足型測定器(I-Ware Laboratory社)で測定した。また、母趾外転筋力を等尺性筋力計(μTasF1、ANIMA社)にて測定し、母趾外転筋の筋活動を表面筋電図(SX230-1000、バイオメトリクス社)で測定した。統計的手法は、安静時および母趾外転運動時のHVA、母趾外転筋力、筋活動量の経時的変化の比較のために、電機刺激前から刺激後6回の各々で対応のあるt検定を繰り返し行った。多重性を考慮しBonferoni法による補正を行い有意水準1%未満を統計学的に有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象には,目的や方法を十分に説明し同意を得た。なお,本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行われた(承認番号1091)。【結果】 安静時のHVAは電気刺激前22.6±3.1°に対し、電気刺激3回目で18.0±3.1°となり有意に減少した(p<0.01)。3回目以降は、3回目と比較し有意な角度の減少は認められなかった。母趾外転時HVAは電気刺激前22.7±3.2°に対し、電気刺激1回目で17.4±2.0°となり有意に減少し、2回目では14.3±2.4°となり、1回目と比較し、有意に減少した(p<0.01)。母趾外転筋力は、電気刺激前、測定不可能であった状態から、電気刺激1回目で15.8±7.5Nとなり、有意に筋力が増加した(p<0.01)。3回目では22.8±7.2Nとなり、1回目と比較し有意に筋力が増加した(p<0.01)。母趾外転筋の筋活動量は、電気刺激前56.2±27.1%に対し、電気刺激1回目で95.0±45.9%となり有意に筋活動が増加した(p<0.01)。1回目以降、電気刺激の回数を重ねるごとに筋活動量に増加する傾向が認められたが1回目と比較して有意差を認めなかった。【考察】 本研究で、電気刺激を継続することで、安静時および母趾外転運動時のHVAが減少し母趾外転筋力が増加した。その理由として、母趾外転筋に対する電気刺激を繰り返すことで、母趾外転筋の筋緊張が高まり、随意収縮による母趾外転運動が容易にできるようになった結果と考えた。今回の結果より、母趾外転運動が不可能な者には電気刺激を1回だけでなく、最低でも3回以上実施することで、母趾外転位保持が容易になり、運動療法の効果が高まることが示唆された。一方、母趾外転筋の筋活動量については、1回目の電気刺激後に有意な増加は認められたものの、その後の電気刺激では1回目と比較し有意差は認められず、増加する傾向であった。この点については、さらに例数を増やし検証を続けたい。【理学療法学研究としての意義】 本研究では母趾外転運動が不可能な者には、1回の電気刺激よりも、最低3回の電気刺激を継続することで安静時および母趾外転時HVAが減少し,母趾外転筋力が増加するという効果が示された。これは比較的簡便に実施可能な方法である。また、母趾外転筋への電気刺激を加えた運動療法が、外反母趾の保存療法の一助になると考えられる。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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