腫瘍用人工膝関節置換術後患者の歩行時の両側下肢関節の運動学・運動力学的特性:─健常者との比較─
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概要
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【はじめに、目的】 膝周囲原発性骨腫瘍切除後の機能再建には腫瘍用人工膝関節置換術が数多く行われている。再建後の膝関節機能は非術側に比べ低く、動作時に再建関節を含む下肢関節では代償運動に伴い関節負荷が変化すると予想される。本研究では腫瘍用人工膝関節置換術後患者の歩行の運動学・運動力学的特性を健常者と比較し、再建後の両下肢関節への負荷の変化を検討した。【方法】 対象は骨腫瘍切除に伴い腫瘍用人工膝関節置換術を行った患者5名 (男性:女性=3:2、以下平均(標準偏差)―年齢:25 (5.5) 歳、身長:168 (7.0) cm、体重:63 (25) kg) と年齢・性別・身長・体重で群間マッチングを行った健常者5名 (男性:女性=3:2、年齢:25 (3.4) 歳、身長:169 (5.1) cm、体重:66 (11) kg) とした。歩行計測では三次元動作解析装置VICON MX (VICON社) と2枚の床反力計 (Kistler社) を用いて6mの歩行路上での歩行を計測した。患者は自由速度の5試行を、健常者は自由速度と低速度の試行から患者平均に近い歩行速度の5試行を解析し、各試行の両側の1歩行周期から歩行速度と床反力、関節角度、内的関節モーメント、サポートモーメント (片側の股・膝・足関節の内的伸展 (底屈) モーメントの総和)、床反力に起因する関節間力、関節パワーを算出した。比較には各対象者の5試行の平均値を用い、力が関係する値は体重で除して正規化した。両群の経時データはグラフから定性的に評価し、歩行の特徴的な変数は患者群の術側 (術側) 、非術側 (非術側)、健常群の右下肢 (健常群) の三群間で健常群を対照群としたDunnett法による多重比較を探索的に行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は京都大学医学部・医の倫理委員会による承認を得て行った。対象者には測定データを研究発表に利用することを説明の上、書面での同意を得た。【結果】 歩行速度は患者群で1.25 (0.14) m/s、健常群で1.16 (0.12) m/sであった。患者5名中4名は術側接地後に膝屈曲運動が出現せず、1名は術側立脚期後半の膝伸展運動が出現しなかった。初期接地から立脚中期では床反力の最大垂直・前後分力に群間の差は検出されなかった。サポートモーメント、膝伸展モーメントは立脚期前半の最大値が健常群より術側では有意に小さかった (それぞれp<0.001、p=0.002)。また、立脚期中の足関節の負のパワーの時間積分値と足底接地―立脚中期間の平均足背屈角速度は術側が健常群より有意に大きかった (それぞれp=0.046、p=0.015)。非術側では接地後に股屈曲運動が生じ、荷重応答期の股最大屈曲角度は健常群と比べ非術側で有意に大きかった (p<0.001) が、同時期に発生する股屈曲モーメント・パワーで群間の差は検出されなかった。立脚後期の床反力の垂直分力の最大値は術側が健常群より有意に小さく (p=0.019)、非術側が健常群より有意に大きかった (p=0.001)。立脚後期の足底屈モーメント・圧迫力の最大値は術側が健常群より有意に小さく (それぞれp=0.030、p=0.021)、膝関節の圧迫力は非術側が健常群より有意に大きかった (p=0.025)【考察】 立脚期前半の術側サポートモーメントの減少は主に筋で身体を支持する力の減少を示し、同時期の術側膝伸展モーメントの減少が寄与していると考えられた。一方、同時期の床反力の最大値に差は検出されず、本研究の対象患者の術側肢は健常者と比較しても荷重機能が得られていると考えられた。全ての患者は立脚期の術側膝関節運動が健常者と異なり、これを補うため術側足底接地後の足関節角速度と足関節パワーを増大させ、結果として足底屈筋の負担が増大していると考えられた。立脚後期の床反力の比較から、健常者と比べ患者の術側では蹴り出し時に身体を支持する力が減少し、反対に非術側では増大していることが示唆された。術側蹴り出し時の身体支持力の低下は続く非術側接地後の股屈曲運動を招いたと考えられた。各関節レベルでの検討から、術側の蹴り出す力の低下は特に足底屈モーメント・圧迫力の減少に関連し、非術側の蹴り出す力の増大は特に非術側膝関節の圧迫力に寄与していると考えられ、術側足関節、非術側膝関節の負荷増大が示唆された。以上より、腫瘍用人工膝関節置換術後患者の歩行では立脚期の術側足底屈筋や両側の立脚後期の蹴り出しに着目する必要があると考えられた。先行研究では膝周囲筋の同時収縮の増大が報告されており、筋収縮に伴う関節間力も考慮する必要があると考えられる。一方、患者の歩行速度増大には立脚後期の術側足底屈筋の出力増大が有用と考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究により腫瘍用人工膝関節置換術後患者の再建関節以外の関節で生じる力学的変化が明らかとなり、再建関節に加え他の下肢関節への負荷も考慮した歩行機能介入の実現や、患者の長期的な機能成績の向上への寄与が期待される。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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