腰椎椎間板ヘルニアに対するHamstringsの柔軟性評価としての膝窩角の有用性:─ヘルニア摘出術周術期における検討─
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概要
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【はじめに、目的】 我々は昨年度の本学会にて,腰椎椎間板ヘルニア(Lumbar Disc Herniation;以下LDH)症例に対する下肢伸展挙上角(straight leg raising angle;以下SLRA)は神経学的評価,膝窩角(popliteal angle;以下PA)はHamstringsの柔軟性評価になり得ることを報告した.ヘルニア摘出術後に神経症状が変化しても,PAがSLRAとは異なる推移をし,独立したHamstringsの柔軟性評価となり得るかは明らかではない. 本研究の目的は,ヘルニア摘出術前後のSLRA・PAの推移から,PAが神経症状と独立したHamstringsの柔軟性評価になり得るかを検討することである.【方法】 対象は,2010年8月から2011年8月までに,一側性の下肢症状を呈したLDH症例に対し,当院にてヘルニア摘出術(L4/5:11例,L5/S1:10例,L4/5・L5/S1:3例)を実施し,演者が担当し,クリニカルパスに該当した24例(男性15例,女性9例),平均年齢33.8±7.8歳(20~49歳)とした.除外基準は,(1)脊柱管狭窄,すべり症,分離症の合併例,(2)多数回手術例,(3)L4/5,L5/S1以外の高位のヘルニアがある例,(4)50歳以上の症例とした. 検討項目は,症状側SLRA・PAの角度と測定時の症状部位とした.症状部位はHamstringsの伸張痛(大腿後面),腰部・殿部の症状,膝より末梢の症状に分類した.膝より末梢の症状は神経症状有と判断した(2002:Rebain R).検討時期は,術前,術後5日目,術後2週(退院時)とした.術後プロトコールは,術後1~4日目から物理療法・ADL指導,術後5日目から体幹・下肢のStretching・筋力強化,Walkingを開始した. 統計的処理は,SLRA・PAの各時期での比較にはFriedman検定とShaffer法,SLRA・PAの症状部位の比較にχ2独立性の検定を使用し,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象にはヘルシンキ宣言を元に,保護・権利の優先,参加・中止の自由,本研究の趣旨,身体への影響等を十分に説明し,同意を得た.【結果】 SLRAは術前41.6±16.9°と比較し,術後5日目44.0±11.0°,退院時51.3±13.0°で有意に改善した(p<0.01).PAは術前133.5±15.7°,術後5日目131.7±9.6°と比較して,退院時140.6±12.0°で有意に改善した(p<0.01). 症状部位(大腿後面/腰部・殿部/膝より末梢;例)は,SLRAは術前(9/3/12),術後5日目(14/4/6),退院時(12/7/5),PAは術前(20/4/0),術後5日目(22/2/0),退院時(23/1/0)であった.SLRAとPAを比較すると, PAはHamstringsの伸張痛を有する症例がどの時期においても有意に多かった(p<0.01).SLRAは退院時にも20%の症例に膝より末梢の症状が出現していたが,PAは全例出現しなかった.【考察】 SLRAは手術による神経根の除圧により,術後5日目までに改善がみられたと考える.一方PAは退院時に改善したことから,手術による影響は無く,術後5日目から開始したHamstringsのStretchingの効果と考えられる. PAは,90%以上の症例がHamstringsの伸張痛であり,全例膝より末梢の症状が出現しなかった.このことから,PAはSLRAで神経症状が出現する症例に対しても,SLRAとは異なる推移を示し,神経症状と独立したHamstringsの柔軟性評価として実施可能な手技であると考えられる. 以上のことから,PAは神経症状に関係なく,術前・術後のHamstringsの柔軟性を経時的に捉えられる臨床上有用な評価であることを示唆した.また,術後早期のSLRA測定時に神経症状が出現する症例に対しては,SLRAの肢位よりもPAの肢位の方がより安全に,神経症状を誘発せずにHamstringsのStretchingを実施可能と考えられる.術後のSLRA,PAの評価を元に,HamstringsのStretching方法を選択すべきであると考える.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,LDH症例に対する SLRA・PAの解釈の一助になり得る.PAは神経症状と独立したHamstringsの柔軟性評価として臨床上有用であり,Hamstringsの柔軟性を経時的に捉えられると考える.SLRA・PAの評価を元に,術後の理学療法を選択すべきであると考える.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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