ストラップ付き足関節外反・背屈補助靴下が脳卒中患者の歩行におよぼす影響
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概要
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【はじめに、目的】 脳血管障害(以下、CVA)の下垂足や内反尖足に対して、装具の処方ではAFO(Ankle foot orthosis)が最も多く、適切なAFO装着はADLの向上に重要な役割を持つ。しかし、AFOは外観面や装着時の困難さが問題となる。これらの問題を解決するために歩行補助具「ストラップ付き外反・背屈補助靴下(特願2009-134544号)」(以下、ストラップ靴下)を広島大学と株式会社コーポレーションパールスターが共同開発した。ストラップ靴下は転倒予防靴下(公開済)の機能にストラップを付属したものである。ストラップにより足関節を外反・背屈方向へ誘導し、内反尖足の改善を促す構造となっている。臨床上、CVA者は歩行時の左右非対称性を外観上の問題として訴える場合がある。Rothら(1997)はCVA者では内反尖足や共同運動などから分廻し歩行となるため、麻痺側の遊脚相時間が延長する傾向にあることを述べている。ストラップ靴下を使用した場合、麻痺側の遊脚相時間を短縮させ、歩行時の左右非対称性を改善させる可能性がある。本研究の目的は、ストラップ靴下がCVA者の歩行時の麻痺側下肢の遊脚相時間を短縮させることができるかを確認することである。仮説として、ストラップ靴下を用いた場合、麻痺側下肢の遊脚相時間が短縮するとした。【方法】 対象はCVAを病歴にもつ者5名(男性2名、女性3名)とした。年齢は70.2±7.8歳であった。対象の麻痺の程度はBrunnstrom recovery stageでVが3名、VIが2名であった。対象は市販靴下とストラップ靴下の2条件で以下の各測定を行った。測定項目は安静座位時の足関節底屈角度、最大努力下での10m歩行時間、歩行時の非麻痺側下肢および麻痺側下肢の遊脚相時間、Gait asymmetry(歩行対称性)(以下、GA)値とした。足関節底屈角度の測定は足部を床面に接地しない状態で端座位となり、腓骨頭、外果、第5中足骨底にマーカーを付けて撮影し、画像解析ソフトで角度を算出した。歩行時の遊脚相時間は両母趾球部、両踵部に貼ったfoot sensor(ALNIC社)のデータから算出し、10歩行周期の平均値を使用した。GA値は歩行時の非麻痺側下肢の遊脚相時間に対する麻痺側下肢の遊脚相時間の誤差として算出した。統計学的分析は市販靴下、ストラップ靴下の条件間で足関節底屈角度、10m歩行時間、歩行時の非麻痺側下肢、麻痺側下肢の遊脚相時間、GA値を対応のあるt検定で比較した。危険率は5%未満を有意とした。【説明と同意】 全対象に本研究の主旨と方法を十分に説明し、書面にて同意を得た。なお、本研究はサザンクリニック整形外科・内科倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号1103)。【結果】 安静座位での足関節底屈角度は市販靴下で36.2±4.3°、ストラップ靴下では26.5±3.5°となり、ストラップ靴下の方が市販靴下よりも有意に角度が減少した(p<0.01)。最大努力下での10m歩行時間は市販靴下では12.49±4.40秒、ストラップ靴下では11.07±4.39秒となり、ストラップ靴下の方が市販靴下よりも有意に歩行速度が上昇した(p<0.05)。非麻痺側下肢の遊脚相の時間は市販靴下で0.42±0.04秒、ストラップ靴下では0.41±0.06秒となり、有意な差は認められなかった。麻痺側下肢の遊脚相の時間は市販靴下で0.47±0.04秒、ストラップ靴下では0.43±0.06秒となり、ストラップ靴下の方が遊脚相の時間が有意に短縮した(p<0.05)。GA値は市販靴下では12.24±6.09%、ストラップ靴下では3.79±8.59%となり、ストラップ靴下の方が市販靴下よりもGA値が有意に小さくなった(p<0.01)。【考察】 ストラップ靴下を装着することで足関節底屈が減少し、歩行では市販靴下に比べて歩行速度の増加が認められた。この結果は筆者らの先行報告(平山ら、2010)と同様の結果を示している。植松ら(2001)は加齢に伴う踵接地期における足関節背屈角度の減少などが高齢者の歩幅減少や歩行速度低下の要因になるとしている。本研究では麻痺側下肢の遊脚相時間の短縮とGA値の低下が認められ、歩行時の左右対称性が改善したことが客観的に示された。これは、ストラップ靴下により歩行時の足関節背屈が促通され、麻痺側下肢の遊脚相の時間が短縮し、結果として歩行速度の向上につながったためと考える。【理学療法学研究としての意義】 ストラップ靴下を装着することで歩行時の麻痺側の遊脚相時間が短縮し、歩行時の左右対称性が向上した。歩行時の左右対称性は歩行能力や外観などに影響すると考えられ、ストラップ靴下は歩行能力の向上に有効な歩行補助具となる可能性がある。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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