ipadを利用した新たな半側空間無視用動的評価の信頼性の検討
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概要
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【はじめに、目的】 脳卒中後に半側空間無視(USN;Unilateral Spatial Neglect)などの高次脳機能障害を合併する場合,著しくADL能力低下の原因となることが知られている.そのため,USNの評価・治療に関して数多くの報告がみられる.現在のUSNの評価は線分末梢試験や線分二等分試験のように机上試験が多く,静止平面上の試験が主流であるため,ADL動作や空間,動きに対応していない.今までにも車椅子駆動によるUSNの評価研究など行われており,今後は動きや空間に対応したUSNの評価が必要であると考えられ,治療成果に対応可能な評価だと考えられる.今回,ipadを利用して,新規にUSN評価のアプリケーションを作成し,画面上で動的な評価を実施した.そこで,ipadにおける今回の評価の再現性を検討した.本研究は理学療法士協会の研究助成の一部を用いて行った.【方法】 対象は脳血管障害により左片麻痺・USNを呈した右利き12名(平均年齢71.8歳;58~88歳;男性7名,女性5名),平均発症日数106.2(SD70.8:17-209日),平均FIM63.4(SD14.4),平均MMSE20.4(SD5.1),線分二等分試験平均右偏27.5(SD24.01)mmであり,多施設研究にて行った.ipadの評価アプリケーションは,左右端から5つの円(円列)が毎秒100mm以下のゆっくりした速さで画面に現れるが,今回は評価のために使用するため円の色を無色とした.円列は左右からランダムに10回モニターを横切り,どの位置でどの円の色が変更されるかはランダムとし,1施行中ランダムに2回変更した.検査者は評価対象者に「赤い円が現れたら,その円を画面上でタッチしてください」と指示した.ipadのテストから,右または左から出た円のタッチができた右からの画面上の距離(反応距離)と,色が変化した時からタッチするまでの時間(反応時間)を算出した.1日目にはipadによるテストを実施し,その他の基礎情報としてFIMとMMSEを実施した.2日目に1日目と同様のipadによるテストを実施した.統計処理はSPSS 19.0 for Windowsにて,検者内の信頼性を級内相関係数(ICC)と信頼区間(confidence interval ; CI)を用いて検討した.【倫理的配慮、説明と同意】 全対象者に対して,事前に本研究の目的と方法を説明し,研究協力の同意を得た.本研究は首都大学東京荒川キャンパス倫理審査委員会の承認を得た.【結果】 1日目の右から出た円をタッチするまでの最大距離は10.92±4.32cm(mean±SD)で,割合は44.59±21.93%であり,反応時間は1.23±0.24秒であった.左から出た円をタッチするまでの最大距離は11.00±4.25cm,割合は44.18±21.57%であり,反応時間は1.20±0.26秒であった.2日目の右から出た円をタッチするまでの最大距離は11.09±4.60cmで,割合は43.70±23.35%であり,反応時間は1.24±0.22秒であった.左から出た円をタッチするまでの最大距離は10.54±3.85cm,割合は46.51±19.56%であり,反応時間は1.19±0.21秒であった.2回の評価の検査者内信頼性は,右からの円の反応距離ICC(1,1)0.863(95%CI:0.608-0.958),右からの円の反応時間ICC(1・1)0.891(0.680-0.967)であった.左からの円の反応距離ICC(1・1)0.812(0.488-0.941),左からの円の反応時間ICC(1・1)0.797(0.455-0.936)であった.【考察】 USNの評価は今まで机上のテストが主流であったが,今回近年普及しているipadで新規にアプリケーションの動的評価ソフトを開発したので,評価テストの信頼性を検討した.その結果,1日目と2日目の検査にはICC(1,1)で0.797~0891の信頼性が認められた.今までは机上の動きのない線分試験などの検査が主流だが,今回の結果より動きのある評価を実施できることが確かめられた.無視側よりも非無視側からの信頼性が高い傾向があり,無視のない方向からの反応試験に信憑性があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 現在までUSNの評価は机上での評価が多かったが,現在広く普及しているipadを利用して動的な評価を実施し,信頼性のある評価であることが確かめられた.現在までの机上の評価では確かめられなかった動的な評価によって,ADLなどの動きに対応した検査が可能になることが示唆された.今後は単なる評価だけではなく,日常の生活の動きとの関連性や,ADL動作への改善効果の評価などを検討していく必要性があると考えられ,継続して検討していきたい.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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