脳卒中患者に対する簡易式駆動装置を用いた有酸素運動の効果:─層別ランダム化比較研究─
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概要
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【目的】 脳卒中患者に対する有酸素運動は,心肺機能および歩行パフォーマンスを改善させる有効な治療であり,脳卒中リハビリテ−ションガイドラインにおいて強く推奨されている.Tangら(2009)は,発症後早期からの有酸素運動は脳卒中患者の有酸素容量と歩行能力を有意に改善させると報告している.有酸素運動の方法としては,トレッドミルや自転車エルゴメーターなどが使用される場合が多い.しかし,重症症例ではそれらの方法では適応が困難な場合が多く,実際的な有酸素運動の介入が不十分であると考える.また,重症症例に対する有酸素運動の効果を検討した研究は散見される程度である.我々はこれまでに,重症症例を含む脳卒中患者に対する簡易式駆動装置を用いた有酸素運動の効果を検証し,その有効性を証明してきた.しかしながら,重症度別で有酸素運動の効果を証明するにはサンプルサイズが不十分であった.そこで本研究では,さらに症例数を増やし,層別ランダム化デザインを用いた重症度別での有酸素運動の効果を検討したので報告する. 【方法】 対象は亜急性期脳卒中患者47名(男性27名,女性20名,平均年齢65.2±11.4歳,平均発症経過日数59.3±27.6日)とした.各群での重症度の偏りを防ぐためFunctional Ambulation Category(FAC)を用いて対象者を層別化し,介入群と対照群の2群にランダムに割り付けた.研究参加基準は,座位保持が監視以上のレベルでペダリング動作が可能な者とした.除外基準は課題理解が困難な高次脳機能障害を有する者,重度の心疾患や不整脈を有する者とした.介入群は通常の理学療法に加えて簡易式駆動装置マグネサイザー(Chatanooga社製)を用いた有酸素運動を実施し,対照群は通常の理学療法のみを実施した.介入時間は15~20分とし,運動負荷の設定はKarvonen法を用い,運動強度は40~60%とし,介入期間は週3回,4週間とした.評価項目は,6分間駆動距離,Fugl-Meyer assessment scale下肢・下肢協調性項目(FM),Functional Independence Measure運動項目(FIM-m),30秒間椅子立ち上がりテスト(CS-30),麻痺側膝伸展筋力とした.6分間駆動距離の測定はマグネサイザーを使用し,6分間歩行テストの方法に準拠して実施した.膝伸展筋力はHand Held Dynamometerを用いて2回測定し,最大値を体重で除した筋力体重比を算出した.評価時期は介入直前,介入2週間時点,介入終了時点の合計3回とした.統計学的分析は,各評価項目における群間比較を行った.また各群においてFAC3以上を軽症,FAC2以下を重症とし,重症度別でのサブグループ分析を行った.いずれの分析も繰り返しのある二元配置分散分析を使用し,多重比較にはBonferroni法を用い,有意水準を5%未満とした.【説明と同意】 対象者全員に対して研究内容や方法を説明し,紙面上にて同意を得た.【結果】 6分間駆動距離において介入要因と評価時期要因で主効果(P < 0.0001)および交互作用(p=0.0003)を認め,介入群による有意な改善を示した.サブグループ分析において,軽症症例では,6分間駆動距離,FMにおいて介入要因と評価時期要因に主効果(6分間駆動距離;P<0.0001,FM;P<0.0001)および,交互作用を認めた(6分間駆動距離;p=0.001,FM;p=0.0045).重症症例では,交互作用は認めなかったが,すべての評価項目に評価時期要因で主効果を認めた.特に膝伸展筋力(介入群+6.9kg,対照群+4.7kg)とFIM-m(介入群+10.2点,対照群+6.4点)では介入群での改善が大きかった.【考察】 マグネサイザーを使用した有酸素運動が,脳卒中患者の持久力を改善させることが明らかとなった.軽症症例では,6分間駆動距離だけでなく,FMにおいても有意な改善を示した.これは介入開始時点で歩行が監視レベル以上の場合,持久力のみでなく下肢運動機能の改善にも影響することを示した.重症症例においては,膝伸展筋力やFIM-mの改善が対照群に比べて大きい傾向を示し,マグネサイザーを使用したペダリング運動が筋再教育を促進し(Fujiwaraら, 2003),ADL向上の一助となっていることが示唆された.しかしながら,重症症例に対しては,マグネサイザーによる下肢疲労感の早期出現があり,目標心拍数に達する適切な運動負荷での訓練の実施が困難であり,有意な持久力向上を見いだせなかった.重症症例におけるマグネサイザーを使用した有酸素運動は,負荷量の調整を厳密にして実施することで,筋力やADLのみでなく,持久力の向上が期待できると考える. 【理学療法学研究としての意義】 本研究では,脳卒中患者に対する簡易式駆動装置を使用した有酸素運動が,持久力,運動麻痺,筋力を有意に改善させ,持久力の向上ばかりでなく,筋再教育の促進にも効果があることが明らかとなった.本研究は,脳卒中患者に対する有酸素運動の方法論および重症度別評価を行った意義ある研究である.
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