急性期脳卒中患者における転帰予測には心身機能,動作能力,活動,いずれのレベルからの予測が有用か?
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概要
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【目的】 医療保険制度の変化に伴う在院日数・回復期病棟入院基準の短縮化により,これまで以上に早期に転帰先を予測し理学療法を遂行することが重要となるが,その予測は経験や主観的判断によってなされる場合が少なくない.脳卒中患者における機能予後や歩行に関する予後予測については,数多くの報告があり2009年に改定された「脳卒中治療ガイドライン2009」でも予後を予測しながらリハビリテーションプログラムを実施することが推奨されている.先行研究では心身機能,基本動作能力,活動といった様々なレベルの要因から転帰予測が行われているが,脳卒中患者の社会的予後(転帰)を早期に予測するに当たり心身機能レベル,動作能力レベル,活動レベル,いずれのレベルの要因から予測を行うのが最も妥当かといった点については明らかでない.本調査ではこの点について前方視的に検討する事を目的とした.【方法】 対象は当院脳神経外科に入院となった脳卒中初発例のうち入院前施設入所例を除く145例とした.このうち入院前の障害老人の日常生活自立度がB以下の例,死亡退院例,2週間以内に自宅退院となった例,および治療上の安静が2週にわたるくも膜下出血例の38例を除く107例を対象とした.発症2週後に対象例の心身機能,動作能力,活動を評価した.加えて転帰に影響を与えることが予測される性別,年齢,入院前日常生活自立度,人的生活環境についても聴取した.転帰については自宅退院例を退院群,他院転院や施設入所例を転院群とした.心身機能レベルの評価にはmodified NIH Stroke Scale(m-NIHSS),動作能力レベルの評価にはFunctional Movement Scale(FMS),活動レベルの評価にはFunctional Independence Measure(FIM)の運動項目13項目を用いた.転帰を従属変数としてm-NIHSS,FMS,FIM,およびその他の聴取項目との関連について単変量解析を用いて分析した.また転帰を従属変数,単変量解析で転帰との関連のあった項目を独立変数として,心身機能レベル,動作能力レベル,活動レベル各々で多重ロジスティック回帰分析を行った.変数選択には変数増減法を用い,転帰に影響を与える要因,オッズ比,モデルの適合度を示す赤池情報量規準(Akaikes Information Criterion:AIC),正判別率を算出した.なお独立変数の投入に際しては多重共線性にも配慮した.【倫理的配慮,説明と同意】 対象者またはその家族へ研究の主旨を説明し同意を得た.なお得られたデータは匿名化し個人情報管理に留意した.【結果】 単変量解析の結果,転帰と有意な関連を認めたのは性別,m-NIHSSの視野を除く10項目,FMS11項目,FIM13項目であった.多重ロジスティック回帰分析の結果,心身機能レベルでは「麻痺側下肢運動麻痺」,動作能力レベルでは「歩行」,活動レベルでは「排泄コントロール」,「移動」が転帰に影響を与える要因として抽出された.AICはそれぞれ108.3,96.9,102.0であり,動作能力レベルで有意に高値を示した.正判別率はそれぞれ77.3%,84.1%,78.1%であった.【考察】 在宅復帰にあたっては生活活動の自立・介助量軽減が必要となるため,転帰予測には活動レベルの評価尺度を使用することが望ましいと考えられる.しかしながら急性期においては疾病の治療により活動制限を強いられるため,また活動レベルの評価は人的・物的な環境因子に影響を受けることが多いため,正確な活動レベルの評価が困難であることが多い.また心身機能レベルの制限があっても(例えば重度な運動麻痺を呈していても),動作能力低下は軽度である症例も存在するが,これは障害された機能以外の残存機能や代償機能によって動作を遂行することが可能なためである.このように動作能力の評価は心身機能レベルの障害に加え,残存・代償機能を含んだ評価が可能であり,かつ活動レベルの評価のように安静度や環境因子に影響を受けることも少ない.このような要因により心身機能レベル,活動レベルからの転帰予測に比較して動作能力レベルからの予測で回帰式の適合度および正判別率が良好であったと考える.【理学療法学研究としての意義】 脳卒中例の転帰予測に関しては非常に多くの報告があるが,同一脳卒中例を対象として,いずれの障害構造レベルの要因から転帰を予測するのが妥当かといった点について検討した報告は無い.本研究は3つの障害構造レベルの要因の中でも動作能力レベル(機能的制限)の要因から転帰予測を行うことが有用であることを示した点で,非常に有意義な研究であると考える.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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