脳卒中患者における発症10日目評価での転帰の影響因子について:─機能評価に着目して─
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概要
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【目的】 急性期病院での脳卒中患者のリハビリテーションにおいて、理学療法士は早期介入による機能改善や機能、転帰予後についての判断を求められることが多い。先行研究では、機能予後予測において心身機能や動作能力などが関与することが多数報告され、転帰予後予測に関しては歩行自立度、家族構成人数、介護力、ADLなどが転帰の影響因子になると報告されている。しかし影響因子として発症10日以内の急性期における動作能力や機能評価に着目した報告は少ない。その理由として、発症10日以内の急性期では、動作能力は意識障害や安静度の制限により精査ができないことや、転帰予後予測おいて脳卒中患者の背景因子は、機能評価よりも影響を受ける可能性が高いことが挙げられる。そこで本研究の目的は、急性期病院における背景因子を加えた理学療法評価項目からより簡便な評価項目で予後予測が判断できないかと考え、発症10日目の理学療法評価において、機能評価に着目し、転帰を予測できる影響因子の検討をすることである。【方法】 対象は、発症から10日以内に当大学四病院に入院した初発の脳卒中患者146例(男性76名、女性70名、年齢70.4±12.9歳)である。調査項目は、1)背景因子:同居人数、住宅状況、2)発症10日目理学療法評価項目:GCS合計、随伴症候の有無、Brunnstrom recovery Stage(BRS)、Activity for basic movement scale(ABMS)、動的座位バランスとして麻痺側及び非麻痺側への体重移動(麻痺側骨盤挙上、非麻痺側骨盤挙上)、歩行自立度、Barthel index(BI)計10項目を診療録より後方視的に調査した。歩行自立度は、Functional Ambulation Categoriesを参考に7段階で分類し、麻痺側及び非麻痺側骨盤挙上は0:測定不可、1:困難、2:離殿3秒未満、3:離殿3秒以上の四つに分類した。これらの項目について、転帰を自宅退院群(自宅群)と回復期病院群(転院群)の2群に分け、比較検討を行った。解析にはSPSS(ver.19)を使用し、統計学的手法としては対応のないt検定、Mann-WhitenyのU検定(U検定)、カイ二乗検定を用いた。転帰についての予測関連因子を検討するために有意差が認められた項目を説明変数、転帰を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った。尚有意水準は1%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は本学倫理委員会の承認を受け、ヘルシンキ宣言に遵守した上で実施した。【結果】 転帰別の属性は、自宅群88名(男性47名、女性41名、年齢72.3±10.2歳、脳梗塞78名、脳出血8名)転院群58名(男性29名、女性29名、年齢67.6±15.9歳、脳梗塞37名、脳出血21名)であった。自宅群と転院群間(自宅/転院)において、t検定では、BI合計(69.0±32.3/ 35.1±30.6点)、U検定では、GCS合計(15/14)、ABMS(30/17)、BRS(上肢・下肢・手指いずれも5/3)、麻痺側骨盤挙上(3/1)、非麻痺側骨盤挙上(2/1)、歩行自立度(4/1)に有意差を認め、同居人数(1/2) (p>0.05)では有意差を認めなかった。また、同様にカイ二乗検定では、住宅状況、随伴症候の有無(p>0.05)に有意差は認めなかった。ロジスティック回帰分析においては、上肢BRS(オッズ比2.92、95%信頼区間:1.74-4.89)、麻痺側骨盤挙上(オッズ比1.67、95%信頼区間:1.19-2.34)が有意差を認めた。【考察】 今回の研究結果において転帰に関連していたのは、機能評価である麻痺側骨盤挙上と上肢BRSであった。Sandinらは、早期の動的坐位能力が退院時能力の予測に有用であると報告している。動的座位能力には、平衡機能と上肢BRSが関与するとされており、今回同様の結果が得られた。一方、歩行自立度やBIは、有意差を認めていたが転帰の影響因子には至らず、先行研究で多数報告させている背景因子に関しても有意差を認めない結果となった。すなわち、背景因子及び動作能力は、退院時の評価において転帰予後予測に影響していると言われているが、10日目という発症早期において転帰に影響する可能性は低く、起立不可などの安静度に制限があっても簡便な機能評価項目の方が転帰に影響する可能性が示唆された。以上のことから、急性期病院における10日目理学療法評価において、機能評価である麻痺側骨盤挙上能力と上肢BRSが早期から転帰予後予測を判断する上で一助となる可能性があった。【理学療法学研究としての意義】 発症早期からの脳卒中患者の転帰の予後予測に、10日目理学療法評価の機能評価が手がかりになると考えられた。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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