運動呼吸同調現象の誘発が胸腹部運動からみた呼吸パターンへ及ぼす影響
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概要
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【目的】 運動呼吸同調現象(Locomotor-respiratory coupling; LRC)は四肢の運動に呼吸運動が同調する現象である。呼吸リハビリテーションでは呼吸困難感の軽減を目的に、意図的に行われることも多い。これまで我々はその生理的意義について検討を行ってきたがLRC出現によって呼吸困難感が減少することは明らかであるものの、その生理学的機序については未だ十分な検討がなされていない。今回、我々は呼吸に伴う胸郭及び腹部運動に着目し、LRC誘発による呼吸パターンへの影響について若干の知見を得たので報告する。【方法】 対象者は健康な若年男性12名(21.0±1.1歳)とした。まず坐位式自転車エルゴメーター(コンビ社製)を用いて20W/分のランプ負荷試験を実施し、無酸素性作業閾値(AT)と最大酸素摂取量を求めた。続いて本測定として自然呼吸とLRC誘発の条件で、50%、100%、150%AT(Stage1~3)の多段階運動負荷を行った。Stage1および2は3分間、Stage3については回転数が維持できなくなるか最長10分間、ペダリング運動を継続した。LRC条件では、LRC誘発装置(サンキ社製)を用い聴覚的にStage1と2ではペダル二回転につき一呼吸の頻度で、Stage3でペダル一回転につき一呼吸の頻度でLRC誘発を行った。 運動と呼吸の同調の程度は、先行研究を参考に同調した時間/全運動時間からLRC発生率として表した。換気諸量の測定には呼気ガス分析器(ミナト医科学社製)、心電図の測定には心電計(日本光電社製)を用いた。胸郭及び腹部運動の測定にはワイヤー式変位計(MICROEPSILON社製)にバンドを組み合わせた自作の胸郭運動測定装置を用いた。これらのアナログ信号をPower Lab(ADInstruments社製)を介してサンプリング周波数1000Hzで記録し、波形分析ソフトChart ver.5.3 (ADInstruments社製)を用いて解析した。X-Yチャート上に胸郭及び腹部の周径変化のループを描出し、その傾きと面積を算出し呼吸様式の変化の分析を行った。各ステージ終末にBorg scaleを呼吸(呼吸困難感)、下肢(疲労感)に分けて聴取した。 統計処理にはLRCの有無とStageを要因とした分散分析とFriedman 検定を、各Stageでの自由呼吸時とLRC誘発時の比較には対応のあるt検定とWilcoxon検定を、さらに改善群と非改善群の比較には対応のないt検定とMann-Whitney検定を用いた。有意水準はいずれもP<0.05とした。【説明と同意】 すべての対象者に研究の主旨を説明し、書面によるインフォームド・コンセントを得た。なお本研究は兵庫医療大学倫理審査委員会の審査を得て実施した(承認番号 第110075号)。【結果】 LRCの誘発によって呼吸BorgはStage2で有意に減少した。換気諸量はLRCの誘発によってStageを通じて呼気終末炭酸ガス分圧が減少したが、その他はStage2では有意な変化を示さなかった。胸部及び腹部の周径変化から観察される協調性は、すべての被験者で自由呼吸時は換気量の増大に伴いXYチャート上のループ面積が増加していった。一方、LRC誘発時は半数の6名が自由呼吸時と同様に変化したが、その他はLRCによって換気量が増大しても面積は増大を示さなかった。面積が増大しない場合をLRC誘発によって胸腹部が同調したと仮定し、同様の変化をしたものを同調群、それ以外を非同調群に分類した。そしてLRCを誘発した際の各パラメータの変化量について2群間で比較を行った。しかしながら呼吸Borgや酸素摂取量、LRC発生率などのパラメータには有意な差を認めなかった。【考察】 本研究では、胸腹部の運動から判断される呼吸様式がLRCによってどのような影響を受けるか、さらに呼吸困難感の改善とどのような関係があるかの検討を試みた。ATレベルの運動強度であるStage2では、LRCによって明らかに呼吸困難感が減少したがこれまでの我々の研究と同じように、呼吸困難感の減少と関連した換気諸量の変化は認めなかった。一方、胸腹部の運動の解析の結果、自然呼吸時は運動強度が高くなると胸部、腹部それぞれの振幅と位相差によるXYチャート上のループ面積の増大が認められるものの、半数の被験者はLRCによってその増大が起こらなかった。この変化は胸部及び腹部運動の協調性と関係があると考えられるのでLRCによる呼吸困難感の改善と関連があると思われたものの、今回の結果からはそれを裏付けることはできなかった。【理学療法学研究としての意義】 LRCは持久性競技や呼吸リハビリテーションでその効果が言及されてきたが、科学的な検証はまだ不十分である。LRCの効果とそれを得るための条件の探求は、スポーツならびに呼吸リハビリテーション分野の理学療法に寄与すると考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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