足関節底屈筋痙性計測装置による脳卒中者の痙性評価
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概要
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【はじめに、目的】 痙性の定量的評価方法確立のため開発した足関節底屈筋痙性計測装置の信頼性・妥当性を脳卒中者における足関節痙性の定量的評価を通じて検証すること。【方法】 装置概要足関節底屈筋痙性計測装置(Eisei Spastic Ankle Measure:E-SAM)は、ストレインゲージ(2個)・角度センサ(共に共和電業製)付き短下肢装具とその支持台から構成され、計測用インターフェースとPCが付属する。被検者は座位にて、足部を底屈位(-10°)で固定し、踵部の支柱を瞬間的に除去することにより下肢重量で足関節が背屈する。最大背屈位(5°)に達した時点で、装置は機械的ロック機構により再固定される。その間の下肢重量による受動的背屈トルクと底屈筋の伸長反射による能動的底屈トルクを下腿支柱のたわみにより検出し、同時に角度変化を計測する。データは専用計測ソフト(NI社製 Lab View8.5)により角度変化開始をトリガーとして収録した(1000Hz 5sec)。計測は簡易で運搬可能、高い信頼性・波形再現性を有している(千野ら、2011)。背屈方向トルクは負値、底屈方向トルクは正値で示される。対象 痙性麻痺を有する脳卒中者9名および健常者14名(40歳以上)を対象とした。痙性患者群は、男8名、女1名、平均64.7±12.0歳、脳出血3名、脳梗塞4名、脳出血・梗塞2名、平均発症年数6年8ヶ月、麻痺側は左5名 右4名 であった。modified Ashworth scale(MAS)は、3が4名、2が4名、1+が1名であった。健常群は、男性10名、女性4名、平均年齢52.8±8.1歳であった。計測手続き 被験者は昇降座椅子に座り、装置に足部を固定した。固定解除時(最大背屈位)に股・膝関節90°肢位となるよう座面高を調整した。予告指示はせず、足部固定解除・計測実施し、各被験者10回繰り返した。計測時に、MASと足関節底背屈他動可動域を医師・セラピストが評価した。分析 角度変化開始時点で各施行データを同期化し、角度変化開始後3秒間の底背屈トルク値ピークを算出した。さらに、被験者間要因と被験者内要因(反復測定)の2要因分散分析を行った(SPSS17.0)。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、永生会倫理委員会審査を経て実施され、各被験者に目的と安全性を説明し、同意のもとご協力頂いた。【結果】 健常群の背屈トルク平均値は、-32.1±2.2Nm、痙性患者群では、-18.6±1.4 Nmとなり、痙性患者群で有意に小さくなった(P<0.01)。また、反復測定の主効果は認められなかった。MASレベル別の背屈トルク平均値は、MAS3群で-14.5±1.5 Nm、MAS2群で-21.3±1.3 Nm、MAS1+では、-24.7±1.5 Nmとなり、MASレベルが高い程、背屈トルクが低くなる傾向がみられた。また、底背屈ROM平均値は、MAS3群で55°、MAS2群で65°、MAS1+では、75°であった。また、背屈ピーク値は、MASが高く底背屈ROMが少ないものほど、早く出現する傾向がみられた。健常群の底屈トルク平均値は、-4.5±0.7Nm、痙性患者群では、 3.1±0.5 Nmとなり、痙性患者群で有意に大きくなった(P<0.01)。同様に、反復測定の主効果は認められなかった。MASレベル別の底屈トルク平均値は、MAS3群で- 6.4 ±0.8Nm、MAS2群で-0.7±0.3 Nm、MAS1+では、-0.6±0.3Nmとなり、MASレベルが高い程、底屈トルクが高くなる傾向がみられた。また、3名の痙性患者で周期的な底屈トルクピークが200~250ms間隔で観察され、ピーク値が減衰するものと減衰しないものがいた。【考察】 反復測定結果より本計測の高い再現性が確認された。痙性患者群は、健常群より急速背屈直後の背屈トルクが小さくなった。この時点では、最大背屈位に達するまで伸張反射の影響は生じにくいことから、この背屈トルクの差異は、足関節底屈筋群緊張と関節粘弾性によると考えられる。足関節可動域との関連についても、今後、症例を増やし検討を進める。痙性患者群は、健常群より急速背屈直後の底屈トルクが大きくなり、その周期的持続がみられた.これは、伸張反射亢進による痙縮とそれに続くクローヌスと考えられる.痙縮の計測工学的測定は、MAS3レベルとは相関する傾向がみられたが、MAS2、1レベルの差異について、症例を増やし検討を進める必要がある。今後、本装置によりMASの験者間信頼性問題の解消が期待される。なお、本装置は、特許申請中である。【理学療法学研究としての意義】 痙性の発現機序は不明である。原因の解明と客観的評価なくして治療法の確立はなしえない。脳卒中患者等の痙性はリハビリ遂行の阻害因子であり、痙性の定量的評価方法の確立はリハビリ治療、臨床医学の発展に資することが期待される。具体的には、ボツリヌス治療等の薬物療法、徒手的痙性コントロールの定量的効果判定、各種装具の痙性抑制機能の性能評価・適応診断、ひいては、MASに代わる客観的診断・評価基礎情報の提供、痙性の発現機序解明に寄与しうる。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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