排便時の骨盤傾斜に関する研究:─排便時の骨盤を運動学的に捉えると─
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概要
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【背景】 我々は大腸肛門病の専門病院として第43回当学会から継続して排便に関する発表を行っている。第46回大会では「排便姿勢と直腸肛門角、排出量の関係」について排便造影検査(defecography)を用いて、排便時の姿勢の違いによる直腸肛門角(anorectal angle:ARA)の変化や排出量の変化を調査し、排便時は伸展座位よりも前屈座位の方がARAは鈍化し、排出量は増加することを明らかとした。しかしその後、前屈座位を取っても排出量に変化がない症例や、逆に減少する症例を認めた。そこでこの原因を追究するために矢状面脊椎骨盤alignment(sagittal spinopelvic alignment:SSPA)を評価し、排出時の骨盤の回旋や仙骨の傾きを運動学的に捉えることを目的として以下の研究に取り組んだ。【対象と方法】 対象は2010年1月~6月にdefecographyを行った症例の中で、排便困難を主訴として2種類の姿勢(伸展座位と前屈座位)で撮影が可能であった20例のうち、SSPAの計測が可能であった10例(男性7例、女性3例、61.9±18.9歳)とした。defecographyは、疑似便(1回量225g)を直腸内に注入し、安静時(rest)、肛門収縮時(squeeze)、排出時(strain)の3動態の撮影と、一連の動きを動画で撮影する。今回の撮影では、strainの際に伸展座位と前屈座位でそれぞれ排出してもらい、放射線技師が電子ファイル上でLegayeの方法を用いて、1.仙骨上縁に対する垂直線と大腿骨頭から仙骨上縁の中点を結んだ線との角度である骨盤形態角(pelvic incidence:PI)、2.仙骨上縁の中点と股関節骨頭中心を結んだ垂線との角である骨盤回旋角度(pelvic tilt:PT)、3.水平面に対する仙骨上縁の傾きである仙骨回旋角(sacral slope:SS)と、ARAを計測した。計測結果について、Wilcoxsonの符号順位検定と相関検定を用いて、PI、PT、SSの姿勢による違いやARAとの関連について検討した。有意水準5%未満を有意と判断した。【倫理的配慮、説明と同意】 当院倫理委員会と対象者への許可を得て臨床当研究に取り組んだ。【結果】 PIは伸展座位69.8°±12.9°、前屈座位67.5°±12.0°であり、有意差は認めなかった。PTは伸展座位40.1°±12.5°、前屈座位11.2°±11.2°であり、前屈座位で有意(p<0.01)に減少していたが、一部の症例ではマイナスとなっていた。SSは伸展座位1.9°±18.2°、前屈座位56.7°±15.5°であり、前屈座位で有意(p<0.01)に増大していた。ARAはPTと相関(相関係数-0.448、p<0.05)していた。【考察】 PIは金村らによると姿勢などに左右されることはなく、個人の中では常に一定の角度を呈するとされており、今回の結果からも骨盤の形態は二つの姿勢で大きく変化がなかったことを示している。PTは骨盤の矢状面での回旋角度を示しており、前屈座位で減少したことは、骨盤が後傾方向になっていることが示された。SSは水平面に対する仙骨上縁の傾斜を示しており、前屈座位で増大したことは、仙骨のうなずき運動が行われていたことが示される。ARAはPTと負の相関関係となっており、ARAが鈍化するとPTは鋭角になった。しかし一部症例ではPTがマイナスとなっていたので画像を確認してみると、体幹は前屈しているが大腿骨頭よりも仙骨が前方に偏移しており、骨盤を前傾方向に動かそうとしていたことが読み取れる。LegayeよるとPIはSSとPTの和に近似するとされており、今回の結果も同様に近似値となっていた。実際に排便障害症例に対してバルーン排出訓練を行うと、骨盤を前傾させて排出させようとする方が多くみられ、骨盤を後傾させた前屈座位の指導は、有効な排便姿勢の指導であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 前回大会では排便時に伸展座位と前屈座位でARAに違いがみられ、排出量に変化をもたらした結果を示した。今回は前屈座位における骨盤の動きに着目し、骨盤を後傾させると排便に適た姿勢であることが示された。つまり排便を骨盤の運動学的視点から理解したこととなり、理学療法士が排便障害を身近に考えるきっかけになるのではないかと考えられる。今後は更に高齢者や介護分野での排便障害を抱えている症例に対して、運動学視点に基づいたアプローチを実践し、QOLにどのような変化をもたらすのかを検討していきたい。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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