トレッドミル運動が線条体と海馬のモノアミン細胞外濃度に与える影響
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概要
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【はじめに、目的】 我々は機能回復のプロセスに関わる脳内物質を明らかにし,その発現と運動刺激の関連を調べることにより,運動療法の効果を明らかにすることを目指して研究を行っている。今回の研究では,線条体と海馬において神経伝達物質であるモノアミンの細胞外濃度が,運動を行うことによりどのように変化するかを明らかにする目的で実験を行った。【方法】 マイクロダイアリシス法は,自由行動下の動物の行動観察と同時に組織の生体内物質の変動を経時的かつ連続的に検討できる唯一の方法である。今回の研究ではこのマイクロダイアリシス法を使用してモノアミン(NE:ノルエピネフリン,DA:ドーパミン,5-HT:セロトニン)の細胞外濃度変化を測定した。実験には9週令のWistar系ラットの雄17匹(線条体10匹,海馬7匹)体重306±17gを使用し,イソフルランの吸入麻酔下でラットを脳定位固定装置(SR-8N Narishige)で固定し,線条体,海馬にガイドカニューレを挿入した。挿入位置はブレグマを基準に線条体は(anterior:+0.2mm,lateral:3.0mm,ventral:3.5 mm),海馬は(anterior:-3.8mm,lateral:2.0mm,ventral:1.6 mm)とし,2個のアンカービスと歯科用セメントで固定した。計測は術後3日目に微量生体試料分析システム(HTEC-500,エイコム社製)を使用し,全体で約6時間にわたり15分間隔でモノアミンの細胞外濃度を測定した。運動はラット用トレッドミルを使用し,傾斜角度0°,18m/minの速さで行った。【倫理的配慮、説明と同意】 今回の実験は鹿児島大学動物実験指針に従い,鹿児島大学動物実験委員会の承認を得て行った。【結果】 マイクロダイアリシスのデータは,測定開始時が不安定になることからプローブ挿入後3時間以降の1時間を運動前,運動中は30分間,運動後1時間を運動後のデータとして採用した。線条体ではNEを同定できなかったが,DAは運動前60分間の平均をとると1.8±0.8mVで,運動中30分間の平均は2.1±1.0mV,運動後60分間の平均は2.4±1.2mVであった。5-HTの運動前60分間の平均は0.17±0.11mVで,運動中30分間の平均は0.23±0.15mV,運動後60分間の平均は0.15±0.11mVであった。海馬でのNEは運動前60分間の平均が0.08±0.07mVで,運動中30分間の平均は0.25±0.14mV,運動後60分間の平均は0.14±0.11mVであった。DAは運動前60分間の平均をとると0.02±0.03mVで,運動中30分間の平均は0.08±0.06mV,運動後60分間の平均は0.07±0.06mVであった。5-HTの運動前60分間の平均は0.20±0.26mVで,運動中30分間の平均は0.39±0.43mV,運動後60分間の平均は0.17±0.09mVであった。【考察】 今回の結果から線条体,海馬における運動によるモノアミン細胞外濃度変化を確認することができた。線条体では5-HTが走行中に濃度が上昇し,走行後に速やかに低下する傾向を示した。海馬でも5-HTは同様の傾向を示した。5-HTはリズム運動で上昇することが知られており,今回のトレッドミル運動も繰り返し動作なので,これまでの結果を支持するものと考えられる。NE濃度は海馬で運動中に上昇して,運動後に低下する傾向を示した。NEは不安や意欲,学習と関係があり,脳梗塞後遺症患者で低下するとされている。今回の結果から,運動によりNE濃度が上昇して意欲が向上する可能性も考えられる。また,DA細胞外濃度はトレッドミル走行中に上昇し,走行後も高濃度が維持される傾向がみられた。DAは報酬に関与しており運動学習との関係が考えられる。運動により全てのモノアミン細胞外濃度が上昇するという今回の結果であるが,特に注目されるのは濃度上昇の変化である。DAだけは運動後も濃度上昇が維持される傾向がみられた。今後,DAと機能回復の関係も含めて更なる検討を行いたい。【理学療法学研究としての意義】 今回の実験では対象数が少なく傾向しか示せていないが,モノアミンは運動や学習,機能回復に大きく関与しており,運動や行動との関係を明らかにすることは理学療法のエビデンスを示す基礎データをとなり,理学療法の発展に大きく貢献できると考えられる。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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