圧情報を用いた映像観察による荷重量再現性の検討
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概要
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【目的】 リハビリテーションにおいて、荷重量の調整課題は多く用いられている。荷重量の調整課題は、教示方法やフィードバックを与えるタイミング、感覚モダリティが運動学習に与える影響などが検討されている。運動学習を促進する方法の一つとして、動作を繰り返し観察する方法があり、動作観察と観察した動作を組み合わせて治療することによって、運動パフォーマンスの向上を認めることが明らかとなっている(Eltert 2007)。しかし、荷重量を調整する課題では、動作観察を利用した治療方法は検討されていない。その上、動作観察において、どのような視覚提示の方法が、荷重調整の特性を再現しているかは明らかとなっていない。そこで、動作観察によって、荷重量の調整が再現できるかを明らかにするため、上肢において、圧情報を用いた視覚提示による動作観察後の荷重量の再現性を比較、検討した。【方法】 被験者は健常成人6名(男性5名、女性1名、平均年齢26.8、±3.7歳)とした。課題は、モニタにて映像を観察した後、その観察した映像の荷重量を再現することとした。観察する映像は、他者が高這い位の姿勢で上肢を透明の板に荷重する動作とした。そして、支持面の圧変化が視覚的に認識できるよう、手掌面の変化が見える透明の板側から、体重の10%、20%、30%荷重している3条件を撮影した。動作観察は、座位にて、あらかじめ撮影した映像を20秒間観察し、その後の荷重量再現時に下肢の荷重量をデジタル体重計にて測定した。再現時の姿勢は高這いにて、上肢を右側のみ机に接地し、体幹が地面と平行になるように机の高さを調整した。なお、観察、再現する条件の順序はランダムに提示し、一度も荷重量のフィードバックは与えなかった。統計学的処理に臨むにあたり、荷重量を正規化する目的で、被検者の体重を測定し、測定した下肢の荷重量から、右側手掌面荷重量を割り出し、手掌面荷重量の体重比を算出した。統計処理は、各観察条件後の再現した右側手掌面荷重量の体重比間で一元配置分散分析し、事後検定として、Bonferroniの多重比較検定を行った。【説明と同意】 本研究は、被検者に対して十分な説明に基づく同意を得て実施した。【結果】 各荷重観察の条件間の比較にて、10%荷重観察条件に対して30%荷重観察条件で、右側手掌面荷重量の体重比に有意な増加が認められた(p<0.05)。10%荷重観察条件に対しての20%荷重観察条件と、20%荷重観察条件に対しての30%荷重観察条件で、右側手掌面荷重量の体重比に有意な増加は認められなかった(p>0.05)【考察】 30%荷重観察後の再現と10%荷重観察後の再現での荷重割合に差が認められ、大きな荷重量の差があれば、動作観察にて荷重量の再現が可能であった。観察した映像の動作を再現するためには、視覚情報から他者の運動を自己の運動レパートリーと照らし合わせ、シミュレートする過程が必要となる(Calvo-merino 2005)。このことから、本実験で観察した圧情報を用いた動作の映像は、荷重調整のシミュレートを促すことが可能であったと考えられる。しかし、10%荷重と20%荷重、20%荷重と30%荷重といった細かい荷重量の差では、再現時に有意差を認めなかった。これは、先行研究の下肢の荷重調整においても、2/3荷重に比較して、1/3荷重は目標荷重量との誤差が大きく、下肢荷重訓練時と同様に細かな調整が難しい傾向にあった(渡邉 2007)。圧情報を用いた動作を観察するのみでも、荷重量の再現が可能であり、口頭指示などで部分荷重訓練を行う場合と同様の傾向を認めることが明らかとなった。これらのことから部分荷重指導時の一つの介入方法として、圧情報を用いた動作観察が利用できるのではないかと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より上肢において、視覚情報の観察から圧情報を通した荷重量を想起可能であることが明らかとなった。このことから、新しい荷重訓練の理学療法介入の基礎的な研究として意義があると考えられる。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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