運動負荷後の関節角度変化に伴う軟部組織弾性値の経時的変化
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概要
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【はじめに、目的】 軟部組織由来の関節可動域制限に対する評価は,触診や他動運動時の抵抗感,関節可動域測定,疼痛検査が選択されるが,検査者や患者による主観的要素が多く含まれ,測定の検出力に問題があると考えられる.そこで,関節可動域制限の原因となる痛みや疲労などにより起こる筋スパズムや軟部組織の変化を定量的に捉えるために,人体における硬さの指標である軟部組織硬度を測定することで,臨床的介入による軟部組織の変化をより検出するために,弾性値を定量化することが必要であると考えられる.我々は,第46回日本理学療法学術大会にて,軟部組織硬度計(特殊計測社製)を用いた関節角度変化に伴う弾性値の評価は,筋の伸張性を示す指標として有用であることについて報告した.そこで,今回は臨床応用として,運動負荷に伴う弾性値の経時的変化について検討することを目的とした. 【方法】 対象は,下肢に整形外科的疾患を有さない健常成人男性12名とした.方法は,軟部組織硬度計,二次元角度計(フロンティアメディック社製)を使用し,ひずみ測定装置(共和電業社製)に接続して使用した.被験者の姿勢は側臥位とし,測定肢の股関節内外転中間位を保持するために,大腿近位部及び下腿遠位部をスリングで保持した.弾性値は,膝関節伸展0°,屈曲30°,60°,90°,120°,最大屈曲時の大腿四頭筋筋腹中央部を10Nで荷重した時の変位値を測定した.荷重10N時の変位値の算出には,解析ソフト(アミシステムス社製)を使用した.運動負荷は,等速性筋力測定装置を用いて,角速度60°での膝関節伸展運動を行い,最大等速性筋力に対して50%低下した波形が5回連続で観察されるまでとした.経時的変化については,運動負荷前,負荷直後から20,40,60分後に各関節角度における変位値の測定を行った.統計学的検討は,関節角度変化に伴う弾性値の経時的変化について二元配置分散分析を用い,ポストホックテストとして多重比較法(Dunnett)を用いた.統計処理には,統計ソフトSPSS(Ver15.0J)を用い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全対象者においては,実験内容について書面および口頭にて十分に説明し,書面にて同意を得て行った.【結果】 運動負荷における角度変化に伴う弾性値の経時的変化では,関節角度因子及び時間因子に関して主効果を認め,交互作用は認められなかった.関節角度因子に関しては,運動前,運動負荷直後,20分,40分後において,最大短縮位である膝関節屈曲0°に対して屈曲60°より有意な弾性値の低下を示した(p<0.01).60分後においては,膝関節屈曲90°より有意な弾性値の低下を示した(p<0.01).また各関節角度における時間因子に関しては,膝関節屈曲0°,60°,90°において,運動負荷後20分後まで有意に弾性値の低下を認め(p<0.05),膝関節屈曲120°及び最大屈曲位では,運動負荷後40分後まで有意に弾性値の低下を認めた(p<0.05).【考察】 経時時間別の角度変化に伴う弾性値は,同一時間内における角度変化の検討より膝関節屈曲0°である大腿四頭筋の最大短縮位に比べ,膝関節屈曲60~90°の範囲で弾性値の低下を認め,運動負荷後の血流変化が生じている状態においても筋の伸張に伴う弾性値の変化を検出できることが示唆された.また同一膝関節角度内における時間変化の結果より,膝関節屈曲0~90°までの時間経過は,運動負荷後20分~40分の間で運動前弾性値に回復することが明らかとなった.これは,先行研究と同様な結果であり,筋の短縮位から生体長付近までの運動範囲での計測は,主に運動に伴う血流量の変動を捉えていると考えられる.一方で,膝関節屈曲120°から最大屈曲位での時間変化の結果より,運動負荷後40分においても運動前弾性値に比べ有意な弾性値の低下を認めたことから,筋の伸張位での計測では,血流量の変動以外にも筋の長軸方向の弾性値の低下を検出することが可能であると推察された.この弾性値の低下は,乳酸や水素イオンが間接的に影響し起こる弛緩不全や,筋内圧上昇に伴い,侵害受容器が刺激され筋スパズムに至ること,また筋疲労により筋紡錘の活動増加,ゴルジ腱器官の活動抑制が相乗的に作用し,α運動神経細胞の興奮を異常に高めることで起こる運動誘発性筋痙攣など筋が持続緊張状態であることが考えられ,伸張域での計測による弾性値の低下を検出したものであると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 伸張位での軟部組織硬度測定は伸張性を示す一指標となると考えられ,障害を捉える評価として用いることで,臨床的介入による変化の検出力が高まると考えられる.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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