ハンドヘルド組織硬度計を用いた筋疲労評価の基礎的研究
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
【はじめに、目的】 我々は,日米協同プロジェクトで理学療法総合評価システムについて開発を進めている.その一つである組織硬度計を用いた筋疲労評価の基礎的研究を行った.筋疲労の推定法には,局所酸素動態,筋音図,血中乳酸濃度,筋張力,筋電図周波数解析,筋硬度測定法などがあり,運動療法や物理療法の有効性や効果判定に用いられている.今回は,その内の筋電図周波数解析と組織硬度計を用いて,筋疲労(All-Out,以後A-O)直後からの筋硬度(以後M-H)と筋電図周波数(以後EMG-PF)の経時的変化について報告する.【方法】 対象は健常成人男性12名,平均年齢27.8歳(23-38歳),平均身長172.8±3.5cm,平均体重63.3±7.4kgで全員右利きの者.M-HとEMG-PFの被検筋は上腕二頭筋(以後BB)とした.疲労課題は,端坐位にて肩関節0度位,肘関節屈曲90度,前腕回外位,手関節手指伸展位で前腕下端にBB最大等尺性随意収縮(以後MVC)の50%重錘を負荷した収縮を持続させ,肘関節90度位保持困難や振戦が出現した時点をA-Oとした.M-H(測定点:BB長頭部)は肩関節0度位,肘伸展位安静臥位で組織硬度計(OE-220,伊藤超短波社製)を用いて測定した.EMG-PF(測定点:BB短頭部)は,疲労課題と同肢位で前腕下端に30%MVC等尺性収縮を5秒間保持し計測した.筋電データはサンプリング周波数1kHzで任意に3秒間を抽出し,フィルター処理後,高速フーリエ変換(FFT)し,中間周波数(Median Power Frequency以後MdPF)を算出した.M-HとEMGは,試験開始前とA-O直後から5分間隔で20分後まで,その10分後の30分まで7回測定した. 統計処理にはSPSS for Windowsを用いた.経時的変化にはFriedman検定を用い,その後の多重比較にはWilcoxonの符号付順位検定を用いた(有意水準は5%未満とした).【倫理的配慮、説明と同意】 すべての対象者に研究の目的と内容,利益とリスク,個人情報の保護,参加の拒否と撤回などについての説明を行い,参加同意書には自筆による署名を得た.また,本研究は学校法人こおりやま東都学園研究倫理委員会に審査を申請し,研究実施の承認を得た.【結果】 1. M-Hは,試験開始前硬度を基準としてA-O直後から30分後までFriedman検定結果は有意(p<0.05)に変化した.2. このM-Hは,開始前平均値が26.2±3.2%.A-O直後29.7±3.6%.5分後28.3±2.8%.10分後29.0±3.9%.20分後29.6±2.9%.30分後は28.8±2.9%で,多重比較の結果は開始前硬度に比較してA-O直後から30分まで有意(p<0.05)に硬度が高かった.3. MdPFのFriedman検定結果は有意(p<0.01)に変化した.しかし,このMdPFは試験開始前平均値が62.0±7.2Hz.A-O直後56.2±9.8Hz.5分後65.4±8.1.10分後66.1±8.0Hz.20分後67.1±8.9Hz.30分後は67.3±8.5Hzで,開始前とA-O直後のみに有意差(p<0.01)が認められた.【考察】 1. M-Hは,開始前硬度に比較してA-O直後から30分まで有意(p<0.05)に硬度が高かった.これは,筋疲労状態における生化学的機序である疲労物質貯留の影響で筋硬度が上昇したものと考える.この疲労物質貯留は積極的介入を行わない限り数時間から数日継続することが考えられ,硬度上昇が30分を超えて継続したものと推測できる.2. MdPFは,A-O直後に有意に周波数が低下した.筋疲労状態における筋電図周波数解析の結果では持続時間の長い筋線維のみが活動を継続し徐波化することが知られている.今回の結果では,疲労状態であるA-O直後のみが有意に周波数が低下しており,徐波化は5分後には改善し中枢神経系機序を解析した周波数低下の継続時間を反映している可能性が考えられる.今回の疲労課題である,BB50%MVC持続は,広く一般的に用いられている方法である.これにおいても,被検者の属性,意欲,実験条件などにより結果に相違が出る可能性がある.今回の結果では,真のA-Oに至っていないことも考えられた.【理学療法学研究としての意義】 筋電図周波数解析や筋硬度測定は,臨床場面の理学療法効果判定で比較的簡単に用いられる方法である.今回の結果から,それらの方法を用いる時の留意点が明らかになった.臨床においてその治療効果判定を行う場合は,検査指標と試験課題などとの組み合わせなど十分な吟味が必要である.
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
- 療養型病院における廃用症候群の予後予測
- 髄腔内バクロフェン治療(ITB)後の理学療法:―歩行可能な症例に対する評価とアプローチ―
- 理学療法士の職域拡大としてのマネジメントについて:―美容・健康業界参入への可能性―
- 脳血管障害患者の歩行速度と麻痺側立脚後期の関連性:短下肢装具足継手の有無に着目して
- 健常者と脳血管障害片麻痺者の共同運動の特徴:―異なる姿勢におけるprimary torqueとsecondary torqueの検討―