超音波画像診断装置による固有背筋の観察:─横突棘筋の断層構造の個体差に注目して─
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概要
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【はじめに、目的】 固有背筋は脊柱起立筋と横突棘筋に分類され,横突棘筋のうち,多裂筋の機能は臨床的に注目されており, 超音波画像から同筋の筋厚の測定を行った報告も散見される.しかし,多裂筋,長・短回旋筋からなる腰部の横突棘筋は,一見すると一塊を成している事が知られている.そのため,超音波画像診断装置を用いた多裂筋の描出の妥当性には疑問が残る.肉眼解剖学的には支配神経と,起始・停止から筋の同定がなされるが,超音波画像では両者ともに困難であるため,組織の層構造から同定を行う事が多い.また,最長筋は肉眼解剖学的には半羽状筋の形態をとることが知られているが,健常成人での報告はない.そこで,本研究の目的は,超音波画像診断装置を用いた固有背筋の構造を明らかにすることとした.【方法】 対象は腰部に障害を有していない健常成人男性21名(平均年齢21.8±3.1歳,平均身長170.4±6.5cm,体重59.5±7.8kg)の右側とした.超音波画像診断装置にはMyLab25(株式会社 日立メディコ社製) を使用し,測定モードはBモード,プローブには,12MHzのリニアプローブを利用した.腹臥位にて第2及び第4腰椎棘突起から3cm外側部の2部位を撮影部位とし,長軸及び短軸像を撮影した.まず,短軸像で胸腰筋膜浅葉を確認し,その深層に位置する固有背筋を確認した.その後,固有背筋内に存在し,棘突起から腹外側に向かう高輝度で描出される腱膜構造を確認した.その内側部をm,外側部をlと分類し,mの区画における固有背筋の断層構造を観察した.さらに,長軸像より最も表層の筋の羽状角を測定した.また,mの断層構造と身長,体重,BMI,皮脂厚,羽状角の関係を検討した.統計学的手法には,対応のあるt検定,一元配置分散分析を使用し,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象には本研究の趣旨,対象者の権利を説明し,紙面にて同意を得た.【結果】 l,mの境界は全例で確認できた.mの区画内を分類できた例はL2で10例,L4で15例であった.分類できた例のうち,表層(m-s)と深層(m-p)の2層に分類できた例がL2で8/10例,L4で11/15例であった.m-sがさらに2層に分類でき,計3層に分類できる例がL2で2/10例,L4で4/15例であった.羽状角はL2・L4間で対応のあるt検定の結果,有意差がなかった.断層構造と身長,体重,BMI,皮脂厚,羽状角の関係は分散分析の結果,いずれも有意差がなかった.【考察】 固有背筋は脊髄神経後枝内側枝の支配を受ける内側群と,外側枝の支配を受ける外側群に分類される.また,内側群と外側群は胸腰筋膜浅葉から深部に向かう腱膜構造によって遮られているため,肉眼的に両群を分けることは可能である.今回の超音波画像診断装置によって描出した画像においても,棘突起から腹外側に向かう腱膜構造はL2・4レベルともに,全例で観察可能であり,そのmの区画は内側群の,lの区画は外側群の区画であると考えられた.また,mの区画が2層に分類される例と3層に分類される例が存在した.この断層構造と身体組成に関するデータに差が見られなかったことから,この断層構造の違いは,アーチファクトなど,超音波画像の描出に関わる問題ではなく,個体差であると考えた.mの区画に存在する多裂筋と長・短回旋筋は,一塊を成すことが知られており,そのためL2・4レベルともに1層に観察できる例が存在した.一方,2層の例では,m-sが多裂筋,深層のm-pが長・短回旋筋と考えられる.また,L4の区画には,L1~3の棘突起に停止する多裂筋が存在しており,多くの筋束が存在するため,m-sを細分して観察できる例が存在したと考えられる.一方,多裂筋の発達は尾側に移行するほど良くなるため,L2レベルでは,明瞭な境界を成さなかったと考えられる.つまり,超音波画像による多裂筋の筋機能を評価する試みがなされているが,多裂筋のみを描出することが困難な例も存在することから,横突棘筋としてmの区画の面積や筋厚を測定することが望ましいと考えられる.lの最表層に位置する最長筋の筋束は背尾側から腹頭側へ走行し,羽状角はL2・4で変わらなかった.同筋のストレッチは体幹の屈曲方向への運動と共に筋を圧迫する,ダイレクトストレッチが有効とする上原らの報告を支持する結果であった.【理学療法学研究としての意義】 近年の超音波画像診断装置の普及により,超音波画像による筋機能評価の試みは今後の研究が期待される.腰部の分節的安定化に寄与する多裂筋の超音波画像診断による機能評価も今後増加することが考えられる.しかし,同筋の同定は困難な例も存在することが明らかになった.そのため,多裂筋として捉えるよりも,横突棘筋として捉えることが望ましいと考えられ,今後の超音波画像による筋機能評価に有用になると考えられる.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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