運動が外来性神経幹/前駆細胞に与える影響:─脳由来神経栄養因子に着目して─
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概要
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【はじめに、目的】 従来,中枢神経は損傷後,再生しないと考えられてきた.しかし,成熟脳での内在性神経幹細胞が発見され中枢神経再生の可能性が示された.脳虚血,脳外傷などの脳損傷時には,内在性の神経幹細胞が増殖すると報告されているが,同時にこの再生能力には限界があり,極めて少ない神経細胞しか補充されないことも報告されている.他方,再生医療の研究の進歩により,体外から必要な細胞を補うことで機能回復が促進される可能性が示された.その機能回復に関しては,神経幹/前駆細胞を移植することで機能が回復するが,その回復が十分でないケースもあるため,より効果性の高い外来性細胞移植の方法を確立する必要がある.そこで本研究では,脳損傷モデルマウスを作製し,神経幹/前駆細胞移植後に運動を行わせ,運動が移植細胞に与える影響について検討した.【方法】 移植細胞にはES細胞由来神経幹/前駆細胞を用いた.中枢神経疾患モデルとして脳損傷モデルマウスを作製し,損傷7日後に,静脈経由で細胞移植を行った.細胞移植後の運動として,移植翌日よりトレッドミルを使用し運動を行わせた. 実験群は,細胞移植のみを行う群 ( trans群), 運動のみを行う群(ex群), 細胞移植後に運動を行う群 (trans+ex群), 治療を実施しない群 (cont群), 頭部切開のみの群 (sham群) の5群とした.運動機能評価にはrotarod testおよびbeam walking testを行い,損傷1週後,2週後,3週後,4週後,5週後に実施した.組織学的評価として,脳損傷5週後に脳を摘出し,神経分化マーカーであるMAP2およびアストロサイトの分化マーカーであるGFAPの免疫染色を行い,移植細胞の動態を評価した.また,RT-PCR法を用いて,損傷領域における脳由来神経栄養因子 (Brain-derived neurotrophic factor : BDNF) やシナプスマーカーの発現を解析した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,広島大学の動物実験委員会指針及び広島大学自然科学研究支援センターの動物実験施設の内規に従って行った.【結果】 運動機能評価では,cont群と比べ,trans群やex群で運動機能が改善した.さらにtrans+ex群では,最も運動機能が改善した.免疫組織学的解析では,MAP2の陽性率は,trans+ex群でtrans群と比較して高かった.また,GFAPの陽性率は,trans+ex群とtrans群の間で差はみられなかった.損傷領域におけるBDNFやシナプスマーカーの発現はtrans+ex群で強かった.【考察】 運動が,損傷脳の回復に貢献するメカニズムとして,BDNFが注目されている.中枢神経疾患モデル動物に,損傷後,運動を行わせることでBDNF mRNAやタンパク質の発現が上昇するという報告は多い.また,運動により側脳室周囲や海馬歯状回などに存在する内在性の神経幹細胞の神経分化が促進されることも報告されている.ex群で,運動機能が改善したメカニズムとして,運動によって放出されたBDNFが,内在性神経幹細胞の神経分化に影響し,神経新生を促進したことが考えられる.さらに,trans+ex群が実験群の中で,最も運動機能が改善した.組織学的解析では,trans群と比較して,trans+ex群で移植細胞の神経分化が促進された.BDNFは,内在性の神経幹細胞に対し神経分化を促進することがin vitroおよびn vivoの実験より報告されている.本研究で移植細胞の神経分化が促進されたメカニズムとして,運動により発現が上昇したBDNFが外来性の神経幹/前駆細胞にも作用したことが考えられる.さらに,シナプスマーカーにも変化がみられたことから損傷領域におけるネットワーク再編に移植や運動が影響したことが考えられる.今後,外来性移植細胞に運動が与える影響について,そのメカニズムを含めさらに詳細に検討したい.【理学療法学研究としての意義】 内在性の神経幹細胞が発見され,損傷後の機能回復を目的として,内在性の神経幹細胞に及ぼす運動効果が期待されているが,増殖能に限りがあるなどの問題点も存在し,十分な回復が望めるとは言い難い.そのような問題点をふまえ,万能細胞から作製した神経幹/前駆細胞の移植が進められる中で,外来性の神経幹/前駆細胞に対しても運動が効果を及ぼすことは,再生医療分野における理学療法の発展に重要であると考える.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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