骨髄間質細胞の神経分化程度と脳損傷モデルマウスへの移植効果の差異
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概要
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【目的】 中枢神経系疾患は,理学療法の対象疾患の中でも,治療に難渋することが多い.これらの疾患に対して,再生医療の臨床応用の試みがなされている.再生医療の中でも,体外で増幅させた細胞を移植する細胞移植治療が注目されている.なかでも,骨髄間質細胞は,自家移植が可能であることから,臨床応用が期待されている.しかし,これまでの研究における骨髄間質細胞の移植による神経新生の効果には検討の余地がある.今後,再生医療の実現化により,目的に応じて,体外で操作した細胞の移植と,その細胞の機能性が問われることになる.我々はこれまでに,電気刺激によって効率的に骨髄間質細胞を神経に分化誘導し,細胞移植後も一定の効果を得たことを報告した.しかし,どのような分化程度の細胞が,移植に効果的であるかは検討していない.そこで,本研究では,マウス骨髄間質細胞の培養の際に電気刺激を行って,分化の程度を分け,形態学的,分子細胞生物学的に検討した.また,脳挫傷モデルを作製し,その移植効果を検討した.【方法】 成体マウスの両側大腿骨及び脛骨から骨髄細胞を採取し,培養皿に播種した.2日後に培地交換によって浮遊細胞を除去し,培養細胞とした.増殖培地で,数回継代後,神経分化誘導培地に移し,電気刺激を行う群(ND+E群)と電気刺激を行わない群(ND群)に分けた.位相差顕微鏡を用いて形態学的な観察を行い,神経系細胞の分化マーカーの発現を免疫抗体法及びRT-PCR法により検討した.これらの細胞は,分化誘導7日後と14日後に,中枢神経系疾患モデルとして作製した脳挫傷モデルマウスに移植した.移植は,損傷7日後に行い,損傷前,及び損傷2日から 28日後に運動機能を評価した.脳損傷から28日後にマウスから脳を摘出し,免疫染色を行った.【説明と同意】 本研究は,広島大学の動物実験委員会指針及び広島大学自然科学研究支援センターの動物実験施設の内規に従って行なった.【結果】 形態観察では,ND+E群で突起を伸ばした細胞が多くみられた.RT-PCR,免疫染色では,分化誘導7日後において,ND+E群で神経分化早期のマーカーが,ND群に比べて強く発現した.さらに分化誘導14日後では,ND+E群で成熟神経細胞マーカーの発現が強くなった.ND群では,成熟マーカーの発現はほとんどみられず,神経分化早期のマーカーの発現がみられた.細胞移植に関して,分化誘導7日後の細胞を移植した群は,ND+E群の細胞を移植した脳挫傷モデルマウスの運動機能が有意に改善した.また,脳の免疫染色においても,ND+E群の移植細胞の神経細胞への分化率が有意に高かった.分化誘導14日後の移植細胞は,ND群に比べ,ND+E群の細胞を移植した群の運動機能の成績が悪かった.【考察】 電気刺激を使って神経分化誘導を行うと,7日後に神経分化早期のマーカーの発現が強くなった.また,14日後には,成熟神経細胞の分化マーカーの発現が強くなった.それに対して,電気刺激をしない群では,7日後では,分化マーカーの発現はほとんどみられなかった.14日後では,神経分化早期のマーカーの発現に留まっていた.分化誘導7日と14日の細胞を脳損傷モデルマウスに移植したところ,電気刺激をした群で7日間培養した細胞が最も良い成績を得た.また,成熟神経細胞のマーカーの強い発現がみられた電気刺激群の14日間培養した細胞では,移植効果があまり得られなかった.このことから,本研究で培養した電気刺激によって早期の神経分化-マーカーの発現を誘導された細胞が,中枢神経系疾患への移植効果が高い可能性が示された.また,分化誘導をかけ過ぎた細胞では,あまり効果は得られなかった.比較的同様の発現パターンを示した細胞でも,内容日数が長期に及ぶと,移植効果が得難くなる傾向が示された.上記の結果をもとに,今後は,移植細胞のキャラクターを詳細に検討し,どのような細胞が,生着,分化,ネットワークの再形成において機能的な細胞であるか解明する必要がある.【理学療法学研究としての意義】 近年,再生医療が身近なものとなってきており,臨床応用の実現に確実に歩を進めている.これらの時代の流れの中で,理学療法士の技術と知識には,より専門的なものが求められる.再生医療において,理学療法士がどのような治療が出来るか,培養実験や動物実験で検討していくことは,理学療法研究の発展のためにも重要である.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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