神経筋接合部形成に対する電気刺激の効果:―神経筋共培養モデルを用いた検討―
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概要
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【はじめに】 神経筋接合部(NMJ)は,運動神経と骨格筋との間に作られるシナプスである.理学療法において電気刺激は多用されるが,どのような機序でNMJ形成に作用しているかは不明である.神経系細胞であるNG108-15は筋細胞と共培養すると機能的シナプスを形成する事が知られており,NMJの形成を観察するのに用いられる細胞である.今回我々は,神経筋共培養モデルを用いて電気刺激の効果を調べたので報告する.【方法】 ラットL6骨格筋細胞を100mmディッシュに播種し,増殖培地(DMEM-H 10%FBS)で4日間増殖培養した.80%コンフルエントになった後,分化培地(DMEM-H 2%FBS)に交換し,5日間分化培養して筋管を形成させた.また,運動神経に似た性質を持つコリン作動性神経系細胞であるラットグリオーマ,マウスニューローマの雑種細胞NG108-15は,増殖培地(DMEM-H 10%FBSヒポキサンチンナトリウム 5mM,アミノプテリン,20μMおよびチミジン 0.8mM)で増殖培養した後,分化させたL6骨格筋細胞の培養皿へ移し共培養した.共培養2日後より2日間電気刺激を行い,共培養4日後に解析用の観察試料の作成を行った.電気刺激条件は,矩形波,パルス幅2.0ms,刺激頻度0.5Hz,刺激強度50vとした.実験群は骨格筋だけ培養する(骨格筋群),電気刺激を行わない(共培養群),共培養したものに電気刺激を5分間行う(5分群),30分間行う(30分群),60分間行う(60分群)の5群とした.解析はα-bungarotoxinとNeurofilament-H(NF-H)の発現を蛍光免疫染色で観察した.また,アセチルコリンレセプター(AchR)の集積数を計測した.Synapsyn1,Agrin,ADAM19,ERK1/2の発現をウェスタンブロッティング法により観察した.【結果】 蛍光免疫染色の観察では,30分群,60分群において神経突起の伸長が抑制されているのが観察された.また,ウェスタンブロッティング法による観察でも同様にNF-Hの発現が30分群,60分群で低下していた.一方,AchRの集積数は30分群,60分群で多くなっていた.シナプス関連タンパクであるSynapsyn1も同様に30分群,60分群で強い発現を示した.Agrinは共培養群,5分群で強い発現を示したが,30分群,60分群では発現が低下していた.ADAM19活性型の発現が30分群,60分群で亢進していた.またErk1/2は30分群,60分群で時間依存的に強く活性化されていた.【考察】 電気刺激時間の長い30分群,60分群では,神経突起の伸長が抑制されていた.過去の研究でも持続的な電気刺激は神経突起の伸長を抑制する事を示唆する報告もあり,本研究の結果も同様であった.一方,NMJの形成について観察するとAchRの集積数や,Synapsyn1の発現は30分群,60分群で亢進していた.この事より30分間から60分間の電気刺激はシナプスの形成を促進する事が示唆された.NMJ形成には,Agrin/Musk系やNeuregulin系が関与している事が分かっている.近年のin vitroの研究でAgrinはAchR集積促進に,Neuregulin系は抑制に働く事が報告されている.しかし,過去の報告とは対照的にAchRの集積が促進される電気刺激条件で,Agrinの発現は抑制され,Neuregulin系の上流であるADAM19は活性化し,下流のERK1/2も活性化されていた.この相違は過去の研究がシナプスのない状態で行っている事が影響していると考えられた.以上の事から,電気刺激によるNMJ形成の促進は,Agrin系でなくADAM19の活性化から始まるNeuregulin系により制御されている事が示唆された.また,今回の検討に用いた神経筋共培養モデルは,生体に近い状態を再現し電気刺激の効果を検討するのに有用である事が考えられた.【理学療法学研究としての意義】 電気刺激療法がNMJ形成にどのように影響するか詳細な報告はない.本研究ではin vitroにおけるNMJ形成について検討を行った.NMJ形成には,様々な機序が関与しているが未だ不明な点が多い.今後,本研究をさらに進めれば電気刺激の作用機序の詳細が明らかになり,新たな理学療法治療の開発へと繋がると考えられる.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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