足関節複合体の底屈並びに背屈可動域における、距腿関節及び後足部可動域の割合とその関係について
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概要
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【はじめに、目的】 足関節は、距腿関節(以下、TA)と距骨下関節(以下、ST)が組み合わさった関節であり、足関節複合体(以下、AJC)とも言われる。よって、足関節を詳細に評価するにはTAとSTの可動性を評価する必要がある。しかし、臨床でTAやSTのみの分離した測定は困難なため、臨床でできる簡便な測定方法を検討する必要がある。加えて、足関節におけるTAとSTの相互的な代償作用が存在するか否かも興味深い。 そこで、本研究の目的は臨床での評価法を考案し、AJCのROMに対するTAの割合を算出した。加えて、AJCにおけるSTの可動域評価として後足部回内外可動域を測定した。そして、AJCにおけるTAの割合と後足部回内外可動域の関係について検討した。【方法】 対象は、足関節と足部に障害のない健常な男女19名(男性8名、女性11名)、右下肢19肢とした。年齢は21.3±2歳であった。 AJCとTAの底背屈可動域測定は、他動可動域測定を検者2名で行った。肢位は腹臥位で、膝関節屈曲90°とした。測定は東大式関節角度計を用い、日整会可動域測定法にならい基本軸を下腿長軸、移動軸を第5中足骨とした。 AJCの測定は、前足部は中間位、下腿長軸を中間位に保ち、底屈可動域は最大底屈内返し肢位、背屈可動域は最大背屈外返し肢位で行った。 次に、TAの測定における前額面での運動方向を決定する為に基準線を設定した。この基準線は、足関節並びに足部の回内外の切り返しの境界といわれる第2趾に設定した。そして、前額面の運動方向を第2趾と下腿長軸が向き合い回内外が生じない範囲で、TAの底背屈のROMを測定した。 後足部回内外可動域の測定は、他動可動域測定を検者1名で行った。測定肢位は腹臥位で、東大式関節角度計を用いて非荷重状態で行った。基準線は、下腿の二等分線と踵骨の二等分線を用い下腿に対する踵骨の可動域とした。後足部回外可動域は内返し最終域で、後足部回内可動域は外返し最終域で測定した。 測定後、AJC とTAで底背屈角度の総和を求め、AJCの総和(以下、TAJC)に対して、TAの総和(以下、TTA)が占める割合(以下、TTA/TAJC)を求めた。同様に後足部回内外可動域の総和を求め、TTA/TAJCと後足部回内外可動域の総和の関係をピアソンの相関関係を用いて解析した。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に対して研究の目的を説明し、同意を得た上で研究を行った。【結果】 TAJCは76.94±5.73°(底屈47.36±2.45°、背屈28.15±5.55°)であった。TTAは66.15±5.83°で、背屈19.63±5.87°(最大値34°、最小値7°)、底屈45.42±2.03°(最大値53°、最小値44°)であった。後足部回内外可動域の総和は43.89±5.73°(最大値54°、最小値34°)、後足部回外可動域は33.31±4.50°(最大値42°、最小値26°)、後足部回内可動域は10.57±1.60°(最大値13°、最小値8°)であった。 TTA/TAJCと後足部回内外可動域の総和の相関係数は-0.83(p<0.01)と強い負の相関を示した。【考察】 TTA/TAJCから、TAJCに対してTTAは85.95%であった。先行研究で、AJCのうちTAは約80%、STは約20%を占めるといわれており、今回の研究はそれに近い結果となった。足関節の主要な関節運動は底背屈であるが、TAの回転軸である内外側軸の構築的特徴により背屈で外返し、底屈で内返しが生じる。そのため、後足部回内外可動域の関節運動が誘導され底背屈角度の構成に関わっていると考えられる。 後足部回内外可動域の回内外比は約1:3であった。通常、STの回内外比は約1:2といわれている。今回、比率が大きくなったのは回外に底屈が含まれるため、底屈時の脛腓天蓋と距骨滑車の間隙が回外域を大きくしたものと推察できる。 TTA/TAJCと後足部回内外可動域の総和は、強い負の相関が見られた。この結果、足関節底背屈可動域はTAと後足部回内外可動域が相互的に可動域を代償しあう関係にあると思われる。この代償は、個人差が大きく、制限因子がともに軟部組織性であるTAの背屈と後足部回外可動域で起こっていると考えられ、両者の代償作用に留意しながら足関節を評価する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 臨床において、TAと後足部回内外可動域の相互的な代償を考えることは足関節や足部の障害特性を検討するうえで有用であると思われる。また、本研究の結果は先行研究に近い値であり、測定が困難なTAやSTの評価を臨床で行うには有用であると思われる。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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