重心動揺計による適切な臨床指標の検討:─姿勢安定度評価指標(IPS)を用いた考察─
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概要
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【はじめに、目的】 重心動揺計はバランスや姿勢の安定性の評価機器であり、動揺面積や軌跡長、ロンベルグ率(以下重心動揺計各指標)などを主な指標として臨床上で多く用いられている。しかし、それぞれを用いた単一の評価指標では潜在的なバランス能力を抽出できない側面がある。それを補う指標として姿勢安定度評価指標(Index of Postural Stability:以下IPS)がある。IPSは立位姿勢保持に関して、重心動揺や重心を随意的に動かせる範囲である安定域の2つの概念を用いて動的・複合的に姿勢の安定性を示すために考案された。IPSを用いた先行研究は多く、その再現性やbergバランスとの相関は高く、また高齢者の転倒予測値も報告されている。しかし一方で、IPSは重心動揺計各指標との比較の報告は少なく、再現性の系統誤差や最小可検変化量(以下MDC)、またIPSに影響する要素の検討など基礎的な臨床指標の報告は見当たらない。本研究の目的は、IPSと重心動揺計各指標の変動率を比較し、また再現性の検討を系統誤差により行い臨床指標としてMDCを算出することである。またIPSを構成する指標の中から影響を及ぼす要素を検出する検討も併せて行った。【方法】 対象は当院リハビリテーション部に所属する職員である健常女性22名とし、年齢27.1±5.3歳、BMI20.3±2.0であった。各指標の測定には重心動揺計(アニマ社製Gravicorder GS-10 typeCIV:測定周波数20Hz)を用いて2回行った。IPSは前後、左右の重心位置の距離を乗じた矩形面積と平均重心動揺面積(中央・前方・後方・右方・左方に重心移動した位置における矩形重心動揺面積の平均値)を用い、log〔(安定性限界面積+平均重心動揺面積)/平均重心動揺面積〕とした算出した。IPSの測定は被検者の足底内側を平行に10cm離した軽度開脚立位とし、それぞれ10秒間の重心動揺を測定した。重心動揺計各指標であるロンベルグ率・動揺面積・軌跡長の測定は30秒間の閉脚立位で行われ、開眼・閉眼で計測した。各指標の変動率 は各指標の1-2回目の測定値より、差の絶対値/平均値 にて算出した。重心移動距離(前・後・右・左) は、中央重心位置より前後左右の重心位置によるその距離にて算出した。 これによりIPSに影響を与える指標として、重心動揺面積(中・前・後・右・左)と重心移動距離より9項目。統計解析は、IPSとロンベルグ率・動揺面積・軌跡長の変動率(1-2回目間)を一元配置の分散分析を用いて比較し、検討した。IPSの平均値と差(1-2回目間)により系統誤差の有無をbland-altman法を用いて検討しMDCを求めた。そしてIPS(1回目)と9項目との関係を単相関係数にて検討し、その中で有意な関連性を認めた項目のみ重回帰分析を用いて検証した。使用統計ソフトはSPSS(ver11)を用い、全ての統計的有意判定基準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には、研究の内容と目的を説明し、同意を得た後に測定を実施した。【結果】 それぞれの指標の1-2回目の変動率については、IPS5.0±3.7%、ロンベルグ率58.5±32.5%、外周面積38.4±19.4%、軌跡長27.1±16.8%となり、IPSとその他については有意な相違を示した。IPSの1-2回目の系統誤差は認められず、MDCは0.22と算出された。IPSと9項目の各因子については、決定係数0.885において右重心移動距離、中央・後方・右方・左方動揺面積の5項目に有意に相関が認められた。【考察】 今回の結果において、IPSが1-2回目による重心動揺計測における指標の中で最も変動率が少なかった。IPSは多項目から複合的に算出されるため、表層的な現象ではなく潜在的なバランス能力をよく表す評価指標となる可能性を示唆する結果となった。一方でその他指標の変動率の大きさは、先行研究ですでに示されている重心動揺計による単独評価の1-2回目における再現性の乏しさを裏付ける結果となった。 今回の研究によりIPSは系統誤差を認めず、またMDCは0.22であることが分かった。先行研究でICCによる検討によりIPSの再現性の高さはすでに報告されているが、これは偶然誤差の検討であり系統誤差ではない。このように系統誤差による再現性の検討を行い、またMDCを算出することは臨床上有意義であると考えられる。IPSを構成する指標項目において影響を与えうる項目の検討を行った結果、距離では1項目、動揺では4項目が抽出された。IPSすなわち複合的バランス能力は重心を単に拡げるだけではなく、動揺を抑えるという要素が関与している可能性が考えられた。また重心移動距離・動揺抑制能力が中心から後方にかけてのバランス保持能力に重要であることが示唆された。【理学療法研究としての意義】 本研究の結果から、重心動揺計を使用する際のより適切な指標としてIPSが有効であることが分かった。これは今後のバランス評価における一助になりうると考えられ、理学療法研究として意義があるものと考えられる。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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