体幹回旋が上肢挙上時における肩甲骨動態および筋活動に及ぼす影響
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概要
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【はじめに、目的】 肩関節に疾患を有する症例では,肩関節運動時の肩甲骨動態や筋活動に異常がみられることが多い.一般に,肩関節疾患を有する患者における肩甲骨の異常運動としては,肩甲骨の内旋,前傾,下方回旋,などが報告されている.筋活動の特徴としては,僧帽筋上部線維の筋活動増大,僧帽筋下部線維,前鋸筋の筋活動減少などがみられる.また,肩甲骨の動態・アライメントに影響を及ぼす因子として,脊柱が後彎することで肩甲骨の前傾,内旋,下方回旋は生じやすくなるとされる.一方で,日常生活場面での上肢挙上動作には,体幹の屈伸のみでなく回旋動作を伴うことも多い.そのため,体幹回旋による影響を明らかにすることは臨床的に重要である.本研究の目的は,体幹回旋が上肢挙上時における肩甲骨動態および筋活動に及ぼす影響を明らかにすることである.【方法】 対象は健常若年男性15名(21.9 ± 0.5歳)とし,測定側は利き手上肢とした.測定には6自由度電磁センサーLiberty (Polhemus社製)および,表面筋電図測定装置 (Noraxon社製)を用いた.4つのセンサーを肩峰,三角筋粗部,胸骨, 第2仙骨に貼付し,肩甲骨,上腕骨,胸郭,骨盤の3次元データを収集した.筋電図は,三角筋前部線維,僧帽筋上・下部線維,前鋸筋,広背筋,大胸筋に貼付した.なお,電磁センサーと筋電図はトリガーを利用して同期させた.測定動作は,胸郭に直行する面上での屈曲動作とし,4秒で挙上する課題を座位で実施した.測定回数は,体幹回旋中間位・体幹同側(測定側)回旋位・反対側(非測定側)回旋位でそれぞれ5回ずつとし,最初と最後の施行を除いた3回の平均値を解析に用いた.体幹の回旋角度は,それぞれ30°に規定した,なお,解析区間を胸郭に対する上肢挙上角度30-120°として分析を行い,解析区間内において10°毎の肩甲骨の運動学的データ,および最大随意収縮で正規化した筋活動量 (%MVC)を算出した.筋電図学的データは上肢拳上10°毎に前後100msec間の平均値を用いた。なお,肩甲骨の運動角度は,胸郭セグメントに対する肩甲骨セグメントのオイラー角を算出することで求めた.肩甲骨の運動は内外旋,上方・下方回旋,前後傾の3軸として解析を行った.統計処理には,各軸における肩甲骨の角度および,各筋の筋活動量を従属変数とし,体幹の回旋条件(中間・同側・反対側),上肢挙上角度を要因とした反復測定二元配置分散分析を用いた.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を紙面上にて説明した上,同意書に署名を得た.なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得ている.【結果】 肩甲骨運動の特徴としては,体幹を同側に回旋することで,上肢挙上時の肩甲骨の外旋が有意に増大していた (同側回旋位 > 中間位 = 反対側回旋位,体幹回旋主効果: p < 0.01),また,肩甲骨の上方回旋も,体幹を同側に回旋することで有意に増大していた (同側回旋位 > 中間位 = 反対側回旋位,体幹回旋主効果: p<0.01),肩甲骨の後傾は体幹回旋による有意な影響は見られなかった .筋活動の特徴としては,僧帽筋上部線維が,体幹を反対側に回旋させることで有意に増大していた(反対側回旋位 > 中間位 = 同側回旋位,体幹回旋主効果: p < 0.05).一方,僧帽筋下部線維は,体幹を反対側に回旋させることで有意に減少していた (中間位 = 同側回旋位 > 反対側回旋位,体幹回旋主効果: p < 0.05).その他の筋には,体幹回旋による有意な影響は認められなかった.【考察】 本研究の結果,上肢挙上時に体幹を同側に回旋させることで,肩甲骨の外旋,上方回旋が大きくなることが明らかになった.また,体幹を反対側に回旋させた状態で上肢を挙上することで,僧帽筋下部線維の活動が抑制され,僧帽筋上部線維の筋活動は増大することが明らかになった.これらの結果は,体幹の回旋状態が,肩甲骨周囲筋の筋活動および,肩甲骨の動態に影響を及ぼしていることを示唆している.体幹同側回旋に伴う,肩甲骨の外旋,上方回旋の増大は,一般に肩関節疾患を有する症例にみられる異常運動とは逆の動態を呈している.体幹の同側回旋に伴い肩甲骨が外旋位となることで,体幹と肩甲骨の剛性が低下し,肩甲骨運動が誘導された可能性が考えられる.一方で、反対側回旋では,僧帽筋下部線維の筋出力低下を,僧帽筋上部線維が代償することで肩甲骨運動を確保していた可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 肩甲骨の内旋,下方回旋の増加は肩関節疾患を有する多くの症例に多くみられ,また僧帽筋下部線維の動員がうまく行えず,僧帽筋上部線維の過活動を呈している症例も多い.これらの症例においては,体幹の同側回旋をとりいれた挙上トレーニングを実施することで,筋の再教育,および肩甲骨運動の誘導につながり,より効果的に理学療法を進められると考える.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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