地域在住高齢者の1年間の連続歩行距離低下と身体機能との関連
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概要
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【はじめに、目的】高齢者における歩行能力の低下は、加齢に伴う身体機能低下の初期兆候として知られており、その重要性が広く認識されている。高齢者の歩行に関する先行研究では、歩行速度などの機能的変化についての検討が多く報告されているものの、歩行の耐久性などの活動に繋がる能力低下について縦断的に分析したものは散見される程度である。歩行能力低下を早期に発見し、加齢による活動制限に対する予防策を講じるためには、歩行の耐久性を含めてより多面的に身体機能の変化について検討する必要がある。本研究の目的は、地域在住高齢者における1年間の連続歩行距離低下と身体機能との関連について検討することとした。【方法】2009~2012年の間にS市にて年1回の頻度で毎年開催されている体力測定会において、上記の期間の内、連続した2年間のデータが揃っている65歳以上の地域在住高齢者47名(男性13名、女性34名、ベースライン平均年齢74.0±6.2歳)を対象とした。分析に用いた項目は、連続歩行距離、握力、開眼片脚立位時間、5m最大歩行速度、Functional Reach Testとした。連続歩行距離は質問紙を利用して、対象者の休まず歩ける距離を「1:10m未満」「2:10~50m未満」「3:50~100m未満」「4:100~500m未満」「5:500~1km未満」「6:1km以上」の6段階で聴取した。握力は、スメドレー式握力計を用いて測定し、2回の最大値を代表値として採用した。開眼片脚立位時間は、対象者の任意側の脚を拳上し続けることができる時間を計測した。5m最大歩行速度は、対象者に「できるだけ速く歩いてください」と教示し、直線11mの歩行路(加速路および減速路各3m、測定区間5m)上を歩行するのに要した時間を計測し、速度に換算した。Functional Reach Testは、安静立位にて基準線から最も前方に届いた手指先端の位置までの距離を計測し、2回の最大値を採用した。統計学的分析は、各変数の1年間の変化について、対応のあるt検定により検討した。また、対象者を1年後の連続歩行距離が低下した群と低下しなかった群の2群に分け、ベースラインにおける各身体機能の群間差を対応のないt検定を用いて検討した。統計処理にはSPSS19.0を使用し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の目的について口頭および案内文により説明を行い、書面にて測定参加の同意を得た。なお、本研究は札幌医科大学倫理審査委員会の承認を受けて実施した。【結果】連続歩行距離および各身体機能について、一年間で有意な変化は認められなかった。ベースラインの連続歩行距離は、段階1が1名、段階2が0名、段階3が2名、段階4が4名、段階5が7名、段階6が33名であり、1年後の変化は9名が低下、38名が維持または向上という結果であった。 1年後の連続歩行距離が低下した群は、低下しなかった群と比較してベースラインの5m最大歩行速度が有意に低く(p=0.04)、その他身体機能の指標である握力(p=0.86)、開眼片脚立位時間(p=0.26)、Functional Reach Test(p=0.14)においては有意差が認められなかった。【考察】地域在住高齢者の連続歩行距離は、身体機能が比較的高い高齢者であっても1年間で低下する可能性があることが示された。また、ベースラインの歩行速度低下がその後の連続歩行距離低下と関連していることが確認された。 一般的に加齢に伴う機能低下は、高次の社会的要素から低次の機能的要素へと低下が生じるとされている。本研究結果においても身体機能には1年間で変化が認められなかったが、連続歩行距離低下が低下した群、低下しなかった群に分けてみた場合、ベースラインの歩行速度が高い者が連続歩行距離を維持していたことが明らかとなった。 以上から、運動機能を高いレベルで維持することの重要性が改めて示唆されたと考える。【理学療法学研究としての意義】地域在住高齢者の連続歩行距離の縦断変化を考えるうえで、初期の歩行速度を評価する必要性が示された。今後さらなる研究を行うことで、高齢者の連続歩行距離低下のリスクを発見し、早期介入に繋げるための有用な知見が得られると考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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