ギプス固定後慢性痛モデルの広範囲機械痛覚過敏の発症に関わる阻血再潅流障害とその長期維持に関わる脊髄アストロサイトの活性化
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概要
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【目的】これまでに我々は,ラット片側後肢の2 週間ギプス固定によって,ギプス除去後に機械的痛覚過敏が広範囲に出現することを報告した(ギプス固定後慢性痛Chronic Post-Cast Pain: CPCPモデル,大道ら2012).また,ギプス除去24 時間後に活性酸素除去剤4-hydroxy-2,2,6,6-tetramethylpiperydine-1-oxy1 (Tempol)とN-acetylcysteine(NAC)を腹腔内投与すると痛覚過敏が抑制されたことから,CPCP疼痛メカニズムおける固定肢の阻血再潅流障害/活性酸素の関与を示唆した.さらに,CPCPモデルに長期間(5 週間以上)みられる持続性機械痛覚過敏に付随して,脊髄アストロサイトが活性化していることを報告した.本研究では,ギプス除去後に生じる固定肢の阻血再潅流障害/活性酸素が広範囲の機械痛覚過敏の発症と脊髄アストロサイト活性化の誘導に関与するのか,脊髄アストロサイトの活性化が機械痛覚過敏の長期維持に関与するのか,について検討した.【方法】CPCPモデルは,ラット(SD系,雄性,10 週齡,N = 36)を用い,深麻酔下(pentobarbital 67mg/kg,腹腔内投与)で,石膏ギプスを体幹部から左側足底まで巻き上げることによって左側後肢を2 週間固定した後,覚醒下で除去することによって作成した.両側足底部,下腿部皮膚,尾部への機械刺激に対する引っ込め反応閾値はvon Frey 毛を,下腿部筋の圧痛閾値はpush-pull gaugeを用い,ギプス除去前,除去2 時間後,1 週間後から5 週間後まで測定した.活性酸素が機械痛覚過敏の発症に関与するかどうか評価するために,ギプス除去24 時間後(機械痛覚過敏の誘導期)にTempol(100,250mg/kg)を腹腔投与した.また,脊髄アストロサイトの活性化が広範囲の持続性機械痛覚過敏の誘因であるかどうか明らかにするために,ギプス除去5 週間後(維持期)にL-α-AA (150nmol in 10ul PBS)を髄腔内投与した.ギプス除去5 週間後,各実験群について,第4 腰髄アストロサイトの活性化を,その特異的マーカーであるグリア線維性酸性タンパク質/Glial Fibrillary Acidic Protein(GFAP)抗体を用いて蛍光免疫染色を行い,脊髄後角における単位面積あたりの陽性細胞密度を算出することによって,比較検討した.【説明と同意】本実験は,国際疼痛学会の倫理委員会が定めたガイドラインに準拠し(Zimmermann 1983),愛知医科大学動物実験委員会の承認のもとに行った.【結果】ギプス除去24 時間後のTempol腹腔内投与(100,250mg/kg)によって,ギプス除去5 週間後の下腿部皮膚,下腿部筋,足底部,尾部に出現する持続性の広範囲機械痛覚過敏は, vehicle投与群と比較して有意に抑制された.また,このときのGFAP陽性細胞密度も,vehicle 投与群に比較して有意に抑制された.さらに,ギプス除去5 週間後のL-α-AA(150nmol in 10ul PBS, i.t.)の投与によって,広範囲の機械痛覚過敏は, vehicle投与群に比較して有意に減弱し, GFAP陽性細胞密度も減弱した.【考察】ギプス除去24 時間後のTempol腹腔内投与によって,ギプス除去5 週間後に下腿部皮膚,下腿部筋,足底部,尾部に出現する持続性機械痛覚過敏と脊髄アストロサイトの活性化が有意に抑制された.ギプス除去5 週間後のL-α-AA投与によって,脊髄アストロサイトの活性化が減弱し,広範囲機械痛覚過敏も一部減弱した.以上により,CPCPモデルにおける広範囲の長期持続性機械痛覚過敏の発症には,ギプス固定肢に生じた阻血再潅流障害/活性酸素が主要な役割を担っており,その長期維持には,脊髄アストロサイトの活性化が一部関与していることが示された.【理学療法学研究としての意義】理学療法によって経験的に有効性が認められている運動器由来慢性痛(明らかな神経損傷以外のものが誘因)のモデル動物を確立した.モデル動物を用いて運動器由来慢性痛のメカニズムを明らかにする取り組みは,運動器由来慢性痛に対する理学療法の有効性に科学的根拠を付与し,メカニズムに基づく新たな理学療法戦略の基盤構築に繋がる意義深い取り組みであると考える.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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