心大血管手術後患者の退院後の身体活動量と下肢筋力の関連について
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概要
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【はじめに、目的】近年、身体活動量は死亡率や疾病の予防に関連があるとされ、身体活動量の増加や運動習慣の確立への啓蒙活動が積極的に行われている。心大血管疾患者も同様に、身体活動量の維持・向上は冠危険因子の是正や心イベントの予防に有用であると報告されており、身体活動量の維持・向上へ向けた包括的心臓リハビリテーションが重要と考えている。しかしながら、心大血管手術後患者の退院後身体活動量を規定する因子については報告が少なく、身体活動量に対する効果的な介入方法は確立されていないのが現状である。そこで、本研究では心大血管手術後患者を対象に退院後の身体活動量を規定する要因について検討することを目的とした。【方法】対象は、2011年3月から2011年9月まで当院にて心大血管手術を施行した後に回復期心臓リハビリテーション(phaseⅡCR)へ参加した53例(男性36例、女性17例、年齢65±11歳、術式内訳:冠動脈バイパス術18例、弁置換・形成術20例、大血管置換術3例、複合手術10例、その他2例)とした。調査項目は患者背景因子(血液検査所見、心機能所見、併存疾患)、術後在院日数、退院からphaseⅡCR開始までの日数、phaseⅡCR開始時の身体活動量(PA)、peak V(dot)O₂(ml/min/kg)、等尺性膝伸展筋力(IKES)(%BW)、Short physical performance battery(SPPB)、Hospital anxiety and depression scale(HADS-A)、Patient health questionnaire(PHQ-9)得点とした。身体活動量は3軸加速度計付き身体活動量計(Active Style Pro, オムロン社製)を、phaseⅡCR開始日から1週間終日装着し、一日あたりの平均歩数を算出し解析値とした。統計学的解析として、PAと各調査項目との関連についてpearsonの相関係数を用い検討した。次に、PAと有意に相関を認めた因子を独立変数、PAを従属変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を実施した。測定値はmean±SDで表示し、有意確率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究の実施にあたり、当院倫理委員会の承認を得た。また、本研究への参加に対して事前に研究の趣旨や内容、および調査結果の取り扱い等に関して説明し同意を得た。【結果】術後在院日数12±7日、退院からphaseⅡCR開始までの日数18±10日、PA 5416±3152歩/日であった。PAとpeak V(dot)O₂(r=0.38、p<0.01)、SPPB得点(r=0.27、p=0.03)、IKES (r=0.47、p<0.01)の間に有意な相関が認められた。一方、他の患者背景因子、HADS-AおよびPHQ-9には有意な相関を認めなかった。peak V(dot)O₂、SPPB得点、IKESを独立変数とし、PAを従属変数とした重回帰分析の結果、IKESのみが開始時PAを規定する因子として抽出された(R²=0.22, p<0.01)。そこで、3000歩/日から9000歩/日まで1000歩ごとに退院後のPAを予測するIKESのカットオフ値を、ROC曲線を用いて感度と特異度から算出したところ、それぞれのカットオフ値は3000歩/日:IKES39%BW(感度0.77、特異度0.29、AUC0.83、p<0.01)、4000歩/日:IKES 39%BW(感度0.79、特異度0.37、AUC 0.77、p<0.01)、5000歩/日:IKES 42%BW(感度0.74、特異度0.27、AUC 0.79、p<0.01)、6000歩/日:IKES 43%BW(感度0.74、特異度0.29、AUC 0.79、p<0.01)、7000歩/日:IKES 47%BW(感度0.69、特異度0.20、AUC 0.82、p<0.01)、8000歩/日:IKES 48%BW(感度0.75、特異度0.22、AUC 0.82、p<0.01)、9000歩/日:IKES 48%BW(感度0.67、特異度0.26、AUC 0.76、p=0.04)であった。【考察】心大血管手術後患者の退院後のPAに関与する要因を重回帰分析により検討した結果、IKESが関与することが明らかになった。また、1000歩ごとに歩数を予測するIKESのカットオフ値を算出したところ3000〜4000歩は39%、5000〜6000歩は42-43%、7000〜9000歩は47-48%というカットオフ値を得られた。対象のIKES値が、目標のPAに対応するカットオフ値よりも低値の場合は、下肢筋力の改善を目的とした介入を重点的に行い、IKESのカットオフ値をメルクマールに漸増的にPAを増加させる必要があると考える。また、健康日本21(第2次)では日常生活における歩数の目標値を、20歳から64歳は8500〜9000歩、65歳以上を6000〜7000歩としている。術後全身状態が安定して経過している、心大血管術後患者に対してそのようなPAを目標とする場合には、IKES 50%程度を一つの目標値とし理学療法介入を進める必要があると考えた。【理学療法学研究としての意義】本研究において、心大血管手術後患者における退院後の身体活動量と関連する因子と、そのカットオフ値を示したことは、今後心大血管手術後患者の身体活動量への介入をする際の一助となり得る。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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