大腿骨近位部骨折患者の身体機能改善と要因の検討
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概要
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【はじめに、目的】 大腿骨近位部骨折は,高齢者に最も多い下肢骨折であり,機能予後を悪化させることが知られている.日本整形外科学会のガイドラインでは,機能予後に影響する因子として年齢が挙げられている.また,退院後のリハビリテーション(以下,リハ)は身体機能の向上に有効であるとされているが,本邦におけるリハの効果に関するエビデンスは乏しい.以前,われわれは,退院後の身体機能の変化を退院時から退院3ヶ月後まで評価し,機能予後に関連すると言われている外来リハの有効性と,年齢の影響について検討した.その結果,歩行速度は年齢や外来リハ施行の有無に関わらず退院後に改善し,5回立ち上がり時間,膝伸展筋力(術側,非術側)は,外来リハを行った患者および75歳未満の患者で改善を認め,年齢や外来リハ施行の有無が筋力などの機能改善に影響を与えることを示した.本研究では前回の研究よりも分析をすすめ,退院後の快適歩行および筋力の改善が退院時の身体機能とどのような関係があるのかを検討した.【方法】 2009年1月から2012年11月までの間に,当院で大腿骨近位部骨折により観血的骨接合術が施行され,退院3ヶ月後まで評価を行い,HDS-Rが21点以上であった22名を対象とした.全対象者の平均年齢は 71.0±9.7歳,外来リハは週1回程度行い,施行群が12名,未施行群が10名であった.身体機能評価は,退院時,退院3ヶ月後にFunctional Reach Test(以下,FRT),5回立ち上がり時間,片足立位時間(術側,非術側),膝伸展筋力(術側,非術側),快適歩行速度を測定した.統計学的分析では,快適歩行の改善度(退院3ヶ月後の快適歩行速度-退院時の快適歩行速度)および膝伸展筋力の改善度(退院3ヶ月後の膝伸展筋力-退院時の膝伸展筋力)と退院時の身体機能との関連性を検討するために,ピアソンの積率相関係数とスピアマンの順位相関係数を求めた.さらに,快適歩行速度および膝伸展筋力の改善度を従属変数とし,FRT,5回立ち上がり時間,片足立位時間(術側,非術側),膝伸展筋力(術側,非術側),快適歩行速度,年齢,外来リハの有無を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究を行うにあたり,藤田保健衛生大学疫学・臨床研究倫理審査委員会の承認を得た.また,対象者には本研究の目的と内容を説明し書面にて同意を得た上で実施した.【結果】 快適歩行速度の改善度は,退院時の快適歩行速度と有意な相関を示した(r=-0.43,p<0.05).重回帰分析の結果から,快適歩行速度の改善度に最も影響を与える因子は,退院時の快適歩行速度であり,有意な説明変数として抽出された(β=-0.7,p<0.05).術側膝伸展筋力の改善度は,年齢と相関を認めた(r=-0.54,p<0.05).重回帰分析の結果から,術側膝伸展筋力の改善度に最も影響を与える因子は,年齢であり,有意な説明変数として抽出された(β=-0.6,p<0.01).【考察】 今回の結果から,快適歩行速度の改善は退院時の快適歩行速度と負の相関があることが示され,退院時の歩行速度が遅い患者は退院後の歩行速度の改善の余地があることが示された.術側膝伸展筋力は年齢の高いものほど改善が乏しいという,先行研究を支持する結果となった.【理学療法学研究としての意義】 転倒に関する研究結果において,筋力低下が転倒発生の中で最も高いリスク因子であると報告されている.大腿骨近位部骨折は機能予後を悪化させ,反対側の骨折リスクが高くなることが知られているが,これらの研究結果と今回の研究結果を合わせ考えれば,高齢な患者ほど退院後の筋力改善が乏しく,転倒発生による再骨折のリスクが高くなることが推察された.先行研究から退院後リハが身体機能の改善に影響を与えるという中等度のエビデンスが示されており,退院後もリハを行い,転倒による再骨折予防を行う必要があることが推察された.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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