多重課題プログラムによる通所リハビリ参加者の歩行能力の変化
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概要
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【はじめに、目的】 虚弱高齢者に対する短期間,低頻度の二重課題歩行運動は二重課題下の歩行速度を改善する。しかし,生活場面では物を運びながら段差を回避して歩く等の三つ以上の課題を行うことがある。こうした多重課題運動の実施や有効性に関する報告は少ない。本研究の目的は平地歩行に加えて,またぎ動作と拍手からなる多重課題プログラムの短期効果を検証することである。【方法】 対象はデイケア利用者30名のうち介入のための適応基準に合致した要支援者21名(平均年齢82.6±6.2歳)であった。全員に,二つのプログラムを行うシングルケーススタディ(ABA'デザイン)を9ヶ月実施した。介入第一期(以下第一期とする)は歩行運動プログラム(柔軟体操,歩行運動,バランストレーニング)を3ヶ月行った(A相)。介入第二期(以下第二期とする)は,2種類の副課題(手拍子とまたぎ動作)を併用した多重課題歩行プログラムを第一期のプログラムに段階的に加えて3ヶ月行った(B相)。介入第三期(以下第三期とする)は再び第一期のプログラムを3ヶ月行った(A'相)。運動頻度は利用者の出席日に合わせて週一回から二回,実施時間は第一期と第三期で60分,第二期は90分とした。測定項目は5m歩行時間,10m障害物歩行時間,Timed up & Go test(以下TUGとする),Trail making test part A,B(以下TMT-A,TMT-Bとする),Functional Independence Measure(以下FIMとする),Mini Mental State Examination(以下MMSEとする)とした。測定回数は全4回で,ベースラインと各介入期終了直後とした。統計学的検定として,4回の測定値の差を検定するためにフリードマン検定,多重比較検定にSteel-Dwass法を用いた。解析はSPSS PASW Statics 18.0と,R 2.8.1を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,信州大学及び所属施設の倫理審査委員会の承認を得て実施され,参加者に対し文章を用いて口頭で本研究の概要・目的を説明し,全員から書面にて同意の意思を確認した。【結果】 研究期間中,第一期1名が入院,第二期1名が入院,2名が体調不良や参加意欲の喪失により辞退した。その後17名が第三期直後の評価を行い,全測定を完了したのは15名(71%)であった。平均年齢は81.9±6.3歳,男性が5名,女性が10名であった。要介護度は,要支援1が7名(47%),要支援2が8名(53%)で,MMSEの平均は27.1±2.3点であった。介入プログラムの検定では通常歩行の右重複歩時間(P=0.034),TUG(p=0.019),総合FIM(p=0.007)及び運動FIM(p=0.007)で差を認めた。しかし,多重比較検定の差はなかった。中枢及び運動器疾患等の既往がある虚弱高齢者で移乗課題及び屋外歩行が自立するTUG20秒以下の群に絞ると,通常歩行の右重複歩時間(p=0.049),TMT-A(p=0.033)に差を認めたが,多重比較検定では認められなかった。【考察】 ABA'デザインで歩行運動プログラムと多重課題歩行プログラムを組み合わせた,9ヶ月間の介入により,通常歩行の右重複歩時間とTUGが減少傾向にあった。さらに屋外歩行が自立できる群に限ると,通常歩行の右重複歩時間とTMT-Aが減少傾向にあった。3カ月間加えた多重課題歩行プログラムが歩行指標を改善すると想定したが,変化は認めなかった。9ヶ月の介入が歩行中の姿勢を安定させる傾向を示した。これは,下肢振り出しやバランストレーニングが歩行の安定性を向上させたと考えられる。TUGの減少は,多重課題歩行プログラム中の待機者が順番を待つ間,開始点まで起立・横移動・着席動作を繰り返し行ったことによると考えられる。運動FIM減少項目は5名の更衣,清拭,排尿管理,階段昇降,移乗であるが,介入プログラムが直接影響したかは不明である。屋外歩行自立群のTMT-A減少は多重課題トレーニング中での副課題への注意配分の練習によると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 歩行運動プログラムに多重課題歩行プログラムを併用した効果は認められなかったが,歩行運動プログラムは介入時間の限られたデイケア等の施設でも実施可能であり,高齢者の歩行能力及びバランス能力を維持・改善できる可能性を示唆している。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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